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「床を削る人々」

ギュスターヴ・カイユボット (1875年)

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 古くなった床を削り直す作業に従事する人々は、ブルジョア階級に生まれ育ったカイユボットにとって、なじみ深い存在だったのでしょう。この年、第2回印象派展に同じテーマで2点、出品しています。もう1点は構図も異なり、もう少し小ぶりですが、現在、個人の所蔵となっています。

 一見すると、テーマといい画面の暗さ、緻密なデッサンといい、まるでクールベの写実絵画のようです。しかも、鋭く画面に引きこまれるような遠近法表現はカイユボット独自のもので、印象派の明るい画面とはほど遠い印象を受けるのです。
 しかし、床に反射する光は見る者にうずくような希望を与えます。また、ドガの絵画にしばしば見られるような画面の片側に消失点を置いた構成は、全体に動きを与え、今を懸命に生きる人々の躍動する命を伝えてくれるのです。こうした写実性と新しい空間のとらえ方という、伝統と現代性を併せ持った魅力が、何よりもカイユボットらしさと言えるのだと思います。
 そして、カイユボットの特徴として面白いのが、他の印象派の画家たちは女性をテーマに選ぶことが多かったのに対し、スポーツや労働をする男性を多く取り上げたことでした。この作品のように、ブルジョア階級から見た労働者を非常に冷静な計算された視点で描くということは、この時代の他の画家にはできなかったことかもしれません。

 ところで、ギュスターヴ・カイユボット(1848-94年)を語るとき、どうしても印象派作品の収集家という側面が大きく取り上げられます。彼自身の作品が評価されるようになったのは、近年になってからのことでした。それは印象派展から退いた後、ほとんど作品を発表しなかったこと、裕福だったために絵を売る必要もなかったこと、そして、どちらかといえば印象派のパトロン的な立場であったという事情が大きかったのかもしれません。
 しかし、カイユボットの作品を改めて見直すとき、その完成度の高さ、画面の緻密さには心を打たれます。彼はドガ風の都市風俗画だけでなく、モネやピサロに見られるような美しい風景画にもその才能をあらわし、傑出した存在であったことが実感されるのです。

 カイユボットが所蔵した印象派のコレクションは、遺言によって国家に寄贈されました。受け入れをめぐっては、美術館やサロン派の画家たちの反対にあったりもしましたが、半数の40点近くが受理され、今ではオルセー美術館の主要なコレクションとなって、私たちを楽しませてくれているのです。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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