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「恋人たち」

ルネ・マグリット (1928年)

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 寄り添う男女・・・しかし、二人の顔には人物のアイデンティティーを疑うかのように布が掛けられ、その表情を読みとることはできません。

 ヴェールを被った人物といえば、15世紀フランドル絵画の婦人像を思い浮かべますが、この作品をはじめとした、顔を隠したり消したりしたマグリットの一連の作品には、何かとても不吉なものを感じてしまいます。
 それは、マグリットの子供時代に起こった事件・・・神経衰弱になってしまった母親の投身自殺という不幸な事件が大きな影を落としていると言われています。

 母親の遺骸は、1912年3月12日の朝、サンブル川から引き上げられましたが、その顔はナイトガウンで覆われていたと言われています。そして、13歳だったマグリットの心には、その時の様子が強烈に残ってしまったのだと言われていました。しかし、実はこの話はマグリット家の乳母が創り上げた、いわば伝説のようなものだったようです。
 ところが、マグリットの柔らかい心には、この伝説が・・・ナイトガウンに顔を包まれた母親・・・というイメージが、長くとどまることになってしまったのです。

 人間の心理や身体の異常な状態を伝達するマグリットの能力は、おそらく天性のものだと思われます。しかし、その独創的な特徴は他の物の介在を許さず、それでいて決してそれが冷たさを感じさせない無意識の世界に展開されているように思われるのです。

★★★★★★★
個人蔵



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