少女がひとり、手紙を読みふける図……..これはフェルメールの非常に得意とした世界です。多感な夢がギュッと凝縮されて、彼女はフェルメールが手のぬくもりで造り上げたような小世界の、可愛らしい天使となって息づいています。たった一人の秘密の空間….他人が入ることを許さないコーナーに身を置く少女は、フェルメールの介在をさえ拒否しているように見えます。
フェルメールもまたそれを十分に心得ているのか、少女との間には光沢のあるカーテンが引かれています。それをそっとあけた部屋の片隅にたたずむ彼女は、私たちの視線にも気づかぬ様子で、一心に手紙に目を落としているのです。
静寂さを深い輝きのあるマティエールで表現するフェルメールらしい、ごく初期の作品ですが、すでに他人の入ることを許さない脱俗的な世界が完成されています。開け放した窓ガラスに映った少女の額の美しさ、ベッドにこぼれかかった果物たちの描写…..すべてにフェルメールの包み込むようなまなざしが投げかけられています。
フェルメールの少年時代や絵画修行に関する資料は、現在、何も残っていません。ですから、私たちはわずかな手がかりから憶測するしかないわけですが、デルフトの中心地マルクト広場の一角に宿屋を経営していた父親の商売がら、良い師を選ぶこと、良い作品に接する機会をもつことは十分に可能だったと思われます。
ですが、そうした幸運な境遇は境遇として、フェルメール自身の作り出した冴え冴えとした色彩の輝き、静謐な輝く世界は彼自身の内側から生み出されたものに違いありません。私たちは、彼の提供してくれる、天使が住んでいるに違いないその世界に、言葉もなく永遠に安らいでしまうのです。
★★★★★★★
ドレスデン 国立絵画館蔵