1900年という世紀の変わり目の年をはさんだほぼ4半世紀、フランスをはじめとしたヨーロッパ諸国では、戦争の気配に目をそむけるかのように、つかの間の繁栄と平和を楽しむ、華やかで享楽的な気分が満ちていました。
この時期、華麗で装飾的な新しい美学が追究され、中でもグスタフ・クリムトを中心とする「ウィーン分離派」は、大きな時代の潮流を形成していました。
クリムトのこの有名な代表作は、とにかく華やか、ピカピカ・・・という印象です。油彩に金箔、銀箔、衣装にも背景にも小さな草花がちりばめられて、息が詰まるほど圧倒的にあらゆる技法がほどこされているのです。それなのに、人物の顔や手足は非常にリアルな写実技法で、このアンバランスな組み合わせが、いっそうこの「接吻」を印象的にしています。クリムト「黄金様式」の時期の最高傑作であり、ジャポニスムの影響をもろに受けているという点でも注目される作品です。
「愛と苦悩」を絶えずテーマにしてきたクリムトですが、この作品はその集大成と言われています。「愛による苦悩の救済」がみごとに象徴された作品なのです。華美な装飾に彩られているにもかかわらず、いやらしい印象が残らないのは、計算された構図の単純さと色彩の絶妙な統一感のなせるわざなのです。
★★★★★★★
ウィーン、 オーストリア美術館蔵