夢見るように幼な児イエスを抱く、まだあどけないマリアです。
繊細で優美・・・まさにこの言葉がぴったりのこの作品は、フランドル派の聖母子・・ということで、画家が住んでいた古都ブリュージュの、どこか物語めいた美しさが画面の中にほんのりと漂っているようで、しばし時を忘れてしまいます。
ゴシック建築の精密な描写、マリアの背後に差し込む陽の光の暖かさには、たしかなリアリズムが感じられ、空気遠近法を駆使した奥行き感の豊かさは、ネーデルラント画派のお家芸ともいえるもので、以後の多くの画家に引き継がれてゆきます。
それにしても、マリアの頭上に輝く宝冠の美しさには目を奪われます。繊細に丹念に心をこめて描かれていて、天の后、聖母のしるしでありながら、このふっくらとした頬をもつマリアにはちょっと重そうです。また、弓状にゆるやかに反ったマリアのほっそりした身体を、大きく豊かなマントが包み、幼な児イエスの小ささを際立たせているようです。
イエスは母のえり元をしっかりつかみ、生命の輝きを全身で表現していますが、一方、後方の祭室では天使たちが本を拡げて歌い、さらに奥の天井高く掲げられた十字架には、すでに磔刑となったキリストの姿が見えます。
イエスの、人の子としての生涯のはじめから終わりまで、また、その死後の復活までもをこの教会そのものが表現していて、みごととしか言いようがありません。
この建物としての教会は、聖母に捧げられたものであり、聖母がこれからたどるであろう運命の日々に、彼女の心のひそやかな神殿となろうとするかのように幽遠にたたずんでいるのです。
★★★★★★★
ベルリン国立美術館蔵