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「星月夜」

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (1889年6月)

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 うねる空、その空をも焼き尽くそうとするかのように黒い炎となって天に伸びる糸杉、異常に巨大な光のかたまりとなって輝く月や星・・・。なんと表現すべきのか、本当に恐い・・・だからこそ異常に美しい作品です。
 月や星が発するエネルギーのうねりが圧倒的で、こちらが気弱なときに眺めると、完全に打ちのめされてしまいそうです。負けそうなときには見たくない作品です。

 1889年5月、ゴッホはアルルに近いサン・レミの病院サン・ポート・ド・モソールに、自らの意思で入院します。主治医のペイロン博士によると、ゴッホはてんかんだったということですが、一方、分裂病説も根強く、今となってはその正式な病名は分かりません。
 それにしても、これは「星月夜」というタイトルの絵ではありますが、画家が見ていたのは星や月ではなく、これらを通して見えた何か別のものだったのではないでしょうか。
 このころゴッホは、
「・・・青い深み(=夜空)の中で星たちは緑に、黄色に、白に、ピンクに、ふるさとよりも-パリでさえも負けるほどに-いっそう輝かしく、宝石のようにキラキラと輝いていた。これらをオパール色と呼ぶこともできるだろう。エメラルド色ともルリ色とも、ルビーともサファイアとも・・・。」
と、神秘的で幻想的な色彩の体験を語っています。

 ゴッホはもう、対象物を形としてとらえようなどとはしていません。形への、また自然へのこだわりを捨てて、自らの心の視覚がとらえたものを、自立した色彩で描こうとしているような気がします。医学的に見ればこの作品は、病気が見せてしまったヴィジョンなのかも知れません。でも、それにしては確かな筆致で、しかも宇宙を想わせるような異様なエネルギーにあふれています。

★★★★★★★
ニューヨーク近代美術館蔵



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