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「東方三博士の旅」

ベノッツォ・ディ・レーゼ・ゴッツォリ (1459-62年)

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     <礼拝室の内部>

 豪華絢爛とはこのことでしょう。密度の濃い、少々息詰まるほどの迫力と美しさ、そして贅沢さです。ゴッツォリは、メディチ家のリッカルディ宮の壁画装飾に、まさにこの華麗さを求められ、みごとに要求に応えたのです。個人礼拝室の壁画でありながら、この大作は、フィレンツェを訪れる人々に忘れがたい強い印象を残しています。
 この豪華な作品は、実は「東方三博士の旅」の様子を描いたものなのです。それと知らずに見たときは、どこかの王侯貴族の行列と勘違いしてしまいそうです。ユダヤの王を探して、星に導かれ、東方からやって来た三博士の一行…。本当ならば、もっと慎ましい旅であったのでしょうが、15世紀フィレンツェ派の画家ゴッツォリの手で、この上なく美しい旅に仕上げられました。

 ゴッツォリ(1420-97)は、金工家として徒弟生活を送り、初期には彫刻家ギベルディのもとでフィレンツェ洗礼堂門扉の制作にも携わっています。その後、フラ・アンジェリコ工房に入り、サン・マルコ修道院壁画、ヴァティカンの壁画などを手掛け、その才能が認められてメディチ宮内の礼拝堂壁画装飾に抜擢されたのです。ゴッツォリは本来、装飾的な仕事に適した画家でしたから、この制作に指名されたことは非常に的を射た人選だったと言えます。師であるフラ・アンジェリコの持つ宗教性とは異なる装飾的、世俗的な作風は、メディチ家側の意図をみごとに体現してくれたのです。
 まだ未成熟な印象の遠近法で描かれた山並みのはるか遠くまで行列はのびていますが、そこには何百人もの人間が描かれており、その一人一人が豊かな表情をもって描きこまれているのです。

 ところで、この作品の中には、当時のメディチ家の人々、そして東西統一公会議の要人たちが顔を見せていると言われています。これには、ギリシャ正教側への配慮、当時の宗教上の問題も関わっていると言われ、そこには老コジモ・デ・メディチの意思が大きく反映していたようです。
 中央祭壇に向かって画面右側の白馬に乗った若者は三博士の一人、カスパールのようです。彼は幼な子イエスに黄金の贈り物を携えているはずです。しかし、この博士は、実は理想化されたロレンツォ豪華公その人なのです。そしてその左、白馬に乗った赤い帽子の男が、ロレンツォの父でこの壁画の注文主ピエロ・デ・メディチ。その隣の馬上にいるのが、祖父コジモ・デ・メディチであると言われています。さらに、その左で正面を向いた二頭の馬上にいるのが、ミラノ公ガレアッツォ・マリア・スフォルツァとリミニ公シジスモンド・マラテスタの二人だという説が有力なのです。このように、東方三博士の旅を主題に借りて、メディチ一族の肖像画が描かれたとも考えられるのです。

 ルネサンスの時代、都市国家を支配した富裕な市民はまた、学問や芸術を庇護し、美術の繁栄をもたらしました。そして、もっとも有名な芸術家のパトロンは、フィレンツェのメディチ家でした。銀行家コジモ・デ・メディチは、その莫大な富をフィレンツェの美化に費やし、一方、パトロンとして学者や芸術家を積極的に庇護しました。コジモが手厚い援助を与えたのは、ドナテッロ、ギベルディ、ボッティチェリ、フィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコなど、ルネサンスの幕開けを飾る芸術家の殆どであり、“パトロン イコール メディチ”のイメージも、コジモによって確立されました。彼は、「祖国の父」とまで言われたのです。
 そして、ロレンツォの時代、メディチ家は絶頂期を迎えるのです。ロレンツォは、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ヴェロッキオ、ボッティチェリ、フィリッポ・リッピなどのパトロンとしても、また天才的な政治家として、詩人として、「ルネサンスの春」を体現する存在となるのです。

 こうした富裕な市民は、教会への寄進を当然の義務と考えていました。しかしやがて、15世紀半ば頃から、宗教主題の作品の中に彼ら自身を登場させることを望むようになります。キリスト教への帰依の心と、自らの栄光をアピールする意図もあったことでしょう。また、芸術家の側も、パトロンたちに気に入られる為にも、そうした作品を制作することに抵抗はなかったと思われます。
 そんな時代に描かれたこの作品ですが、しかし、君主たちのそうした狙いは、なぜかあからさまには伝わってきません。美しさ、華麗さ、みごとな迫力と緻密な描写に、ひたすら感動をおぼえるばかりです。それは、ゴッツォリのひととなりのなせる技かも知れません。また、注文主と芸術家の間の篤い思い、壮麗なもの、儀式的なもの、タピストリーへの愛着など、通い合うものを形にしようという願いがこめられ、至高の芸術へと昇華した姿だけがあるからなのかも知れません。

★★★★★★★
フィレンツェ、 パラッツォ・メディチ=リッカルディ 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎講談社現代新書 メディチ家
        森田義之著  講談社 (1999-03-20出版)
  ◎NHKフィレンツェ・ルネサンス〈3〉/百花繚乱の画家たち フラ・アンジェリコ、フィリッポ・リッピ、ウッチェロ
        森田義之編  日本放送出版協会 (1991-06-20出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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