あまりにも美しい、アングル晩年の、おそらく誰もが知っている名作です。尽きることのない水をたたえた水瓶を肩にのせた泉の精は、もう一つ焦点の合わない目線で永遠の刻を見つめています。
大理石でできているかのように冷たく美しい女性像で、おそらく誰が見ても100パーセント「美しい」と感じるに違いない作品です。完璧に美しいけれども生気が感じられない・・・これが、アングルのもっとも目指したところだったように思います。
彼は「つかの間」とか「瞬間的」とかの美しさに興味がなかったのではないでしょうか。あくまでも、しっかりと用意された土台の上に、彼が理想とした美を構築する・・・。それが、アングルの世界だったように思います。
鏡のように澄んだ、リアリティーのない、言うなれば絶対零度の絵画・・・そのことにこだわり続けたアングルは、偉大な画家であり、さらに近代的でもあります。
それにしても、泉の精の足もとの水がまるで鏡のようで、彼女の足がはっきりと映っています。もしかすると、もっと下まで描けたら、まったく違った女性の顔が映っているんじゃないか・・・と思うのは、考え過ぎでしょうか…。
★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵