シャルダンはいつも手の届くもの、自分の生活の場や生活感情からはみ出すことのない対象を描いています。だからこそ、その実在感は堅固なものになって、単なる「物」という概念を超えて、物が人格に似たものを所有するようになっていきます。シャルダンの愛情は、人と同様「物」たちにも注がれ、そして彼らは生命を与えられるようになるのです。
また、シャルダンの作品の中に、無造作に置かれた物は一つもありません。この作品の中の「物」たちもまた、シャルダンの細心の注意のもとに配置されています。
煙草容れの箱はふたを開けて内張りの青緑色のクッションを見せ、真横には置かずに斜めに置いて奥行きを暗示しています。また、水差しの隣りの陶器もあえてふたを取って手前に置き、ここにも立体感をもたせています。そして長い柄のパイプを左手に斜めに置いて銀器の間に固定し、より奥行きを強調し、また、右手に置かれた柄の短いパイプは、左から右奥への視線の動きを固定するかのように適度な場所に置かれ、存在感を示しています。すべてが計算しつくされたシャルダンの手による静謐な世界です。
もの言わぬ静かな物たちを描きながら、シャルダンは身近にある物たちが、かけがえのない存在として毎日の生活の中で輝きを内包しているのを知っていました。いつも手に触れている品々が創り上げる空間は温かく、そこには生命が宿り、シャルダンの生命をいとおしむ気持ちが、深く静かに潜行します。
「物」たちの質感は物たちの魂そのものであり物質性の究極を追い求めたシャルダンは、いつしか永遠性を秘めた精神世界にまで踏み込んでいったのではないでしょうか。やわらかい光の中にたたずむ「物」たちの、ひそやかな息づかいが聞こえてくるような美しい作品です。
★★★★★★★
パリ、ルーヴル美術館蔵