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「牛乳を注ぐ女」

ヤン・フェルメール (1658-60年ころ)

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 どっしりとした働く女性が、籠の中のパンの塊と同じような力強い存在感で、朝の光の中に居ます。
 とても丈夫そうで、生活感にあふれ、彼女の二の腕は生命感をもって輝いています。彼女が注ぐ牛乳はやけにこってりとした感触で、まるで流れを止めたかのようにさえ見え、この作品自体の濃密さを象徴しているかのようです。
 そして、この窓からの光がパーッと拡がった画面の明るさ・・・。むき出しの白い壁に映える陽の光は驚くほど美しく、打ち付けられた釘や釘穴までが明確に、鮮やかに見てとることが出来ます。牛乳の入った壺も、食べかけのパンも、テーブルクロスも、ひっそりと、そして硬質に輝いています。これらの物質感と存在感はみな、窓からの光が刻印した輝きに満ちているのです。

 風景画家が戸外で制作をするようになるまで、すべての画家は当然のごとく窓からの光の下で制作していました。ですから、フェルメールだけが窓の光の恩恵にあずかっていたというわけではないのです。ただ、フェルメールが繰り返し窓際や窓に近い壁を描き続けていることは特筆すべきことだと思います。彼は、窓によって導かれる光を微妙に調整し、その光を受ける物たちの輝きをすくい上げる眼を磨いていったのではないでしょうか。そして、いつしか光そのものを描くことの興味が彼を包んでいったのではないかという気がします。

 密室と言ってしまって良いようなフェルメールの画面の中で、この女性は非常に生き生きとした生命感をもって息づいています。その光の中のがっちりとした存在感は揺るぎないものであり、そしてそれは飽くまでも光を受け、光とともに在るからなのです。  

★★★★★★★
アムステルダム国立美術館蔵



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