雪の中での猟を終えた猟師たちが、いま猟犬を連れて家路に着こうとしています。
ピン・・・と張った空気、静かな雪景色の中で、空を舞う一羽の鳥がその澄明な雰囲気を象徴しているようです。ザクザクと猟師たちが雪を踏む音と犬たちの鳴き声だけが聞こえて、あとは雪の硬質な白さが胸に迫ります。くっきりと黒い木の輪郭が美しく、その向こうには生活の火が燃えています。冬の農民たちの生活が、この閉ざされた雪の世界でも、きちんと営まれているのです。
遠景には荷車を引く人や忙しげに働く人々、また、遊び回る子供たちも見られ、冷たい雪の白さとは対照的に、人々の存在が暖かく、幸せな気持ちにしてくれます。こんなところに画家のやさしい眼差しがあふれているような気がします。
ところで、ピーテル・ブリューゲルは、16世紀フランドル絵画を代表する画家です。幻想的な作品が多く、「イカロスの堕落のある風景」、「バベルの塔」などが知られていますが、後年は農民の生活を題材にしたものを多く描いています。
農民たちの日常の風俗、四季の自然をきびしく、またユーモアを交えて詩情豊かに表現したものが多いのですが、この作品もまた、きびしい自然とその中でたくましく生きる人々の姿が、張りつめた空気の中に共存する美しい秀作です。
★★★★★★★
ウィーン美術史美術館蔵