なんと豪華な、なんと華麗なナポレオンでしょうか。アングルの技巧的極致ここにあり・・・と感じさせる逸品です。
この作品は、イタリア留学直前、26歳のアングルが、立法院から依頼されて制作した、ナポレオン即位の公的肖像画です。サロンに発表されたときは決して好評ではなかったようですが、豪華な衣装に身を固めたナポレオンは、本当にみごとです。
頭部を飾る金色に輝く月桂冠、金糸の刺繍と白テンの毛皮が施された真紅の豪華な衣装、そして足元に見られるローマ皇帝の象徴としての鷲のデザインの絨毯など、その質感がはっきりと感じられ、まるで写真を見るような出来映えです。そして、右手の王笏と左手の正義の手の杖が対角線を描くように画面をピタッと引き締めて、アングルが師のダヴィッドを超えたニュアンスを持つ画家となったことをはっきりと示しているのです。
しかし、この絵に漂う超現実的な雰囲気は何かとても不思議です。
ナポレオン自身、これはアングルの人物画の特徴でもあるのですが、血の通った人間とは思えないくらい厳正な印象を与えます。この絵が描かれた15年後、ロシア遠征でつまずき、再起をはかるもののワーテルローで敗退、そして流刑地セントヘレナで亡くなるナポレオンの、すでに私たちは亡霊を見せられてでもいるのかのような錯覚に陥ります。
見つめるうちに、どんどんアングルの神秘の世界に引き込まれてしまう作品です。
★★★★★★★
パリ、 アンヴァリッド内軍事博物館蔵