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「王女マルガリータ」

ディエゴ・ベラスケス (1656年)

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 8歳とは思えない気品と威厳、そしてすでに風格さえ備えたマルガリータ王女です。
 ベラスケスはその生涯において何枚ものマルガリータ王女を描いていますが、この作品はつとに有名で、ベラスケス最晩年の、彼の技法の到達点とも言える傑作であり、レオポルド1世に贈るために制作されたものだと言われています。

 銀のレースがあしらわれた青いビロードの豪華な衣装を着て、左手には毛布(マフ)を持ってポーズする美しい金髪のマルガリータ王女・・・。なかなか気の強い賢そうな目の輝きを、老境に入ったベラスケスが、彼らしい冷静で客観的な観察眼をもって描いており、その迫力には圧倒されます。
 ブルーと金銀の配色が美しい画面は、油絵の具を使ったとは思えないほどにあくまでも流麗で、胸の大きなリボンが豪奢なアクセントとなって、画面全体の流れを押さえる役割を果たしているかのようです。

 彫塑的な絵画から印象派的な絵画まで、ベラスケスの絵画は驚くほどの変化を遂げています。そこにはもちろん、彼の飽くなき研究と努力があるわけですが、もう一つ外的要因として、彼の作品が彼の存命中、原則的に王宮から門外不出だったことも大きいと思われます。驚くべきことに、彼は王宮内にある自身の作品に取り囲まれて一生を過ごした画家なのです。
 その中でベラスケスは一作一作、二度と同じ技法を繰り返さないことを信条として描き続けました。彼にとっては、一つ一つの作品がすべて実験だったのです。しかも、ほとんどの場合、彼はデッサンをしていません。私はこの事実を考えると、いつもクラクラとめまいをおぼえます。おそろしいことにベラスケスはいつも、直接絵筆をとって描き始めているのです。
 デッサンをしない以上は、加筆修正が多くなるのは当然で、プラド美術館の彼の作品をX線照射した結果、修正と加筆が繰り返されている事実が明白となっています。

 絵画性・・・このことだけがおそらくはベラスケスのすべてでした。ですから、それを追求するためには、画家と役人の二足のわらじも彼にとっては少しもつらいものでなく、かえって経済的な安定は、ベラスケスに自由で絶え間ない制作活動を約束してくれました。修正に次ぐ修正を重ねながら、彼の目指すところは至高の完全性・・・ただその一点だったのです。
 まだほんの子供でありながら、すでに王女たる気品を備えたマルガリータ王女は、そんなベラスケスの一つの到達点とも言える完璧な女性なのです。 

★★★★★★★
ウィーン 美術史美術館蔵



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