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「画家のアトリエ」(絵画芸術の寓意)

ヤン・フェルメール  (1665年)

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 画家のアトリエの様子が、重そうなカーテンの向こうに描かれています。カーテンの端を鑑賞者自身が押さえて、そっと中を覗いているような視点です。ちょっとうしろめたい気持ちになるのは、画家のねらい通り・・・というところでしょうか。
 この視点から地図のかかる壁に至るまでの空間の、椅子やテーブルやシャンデリア、また画家自身やモデルの姿に、本当に豊かな色彩と光とそして影が宿っています。ともすればゴチャゴチャしてしまいそうな光景を、清澄で静謐な空間に仕上げてしまうフェルメールは、ほんの何気ない日常も、輝かしい永遠の場に変えてしまう魔法の絵筆を持っていたのではないでしょうか。

 それにしても、歴史を司るミューズ  クレイオーの衣装を身につけたモデルを描きながら、画家は完璧に背中を向けています。手元の絵も、こちらに見せないように背中で隠していますが、その姿に象徴されるように、フェルメールは謎の画家です。彼の生涯をたどる確実な資料は非常に乏しく、絵画という空間の中でのみ純粋に生を営む静謐な画家・・・というイメージしか浮かんできません。
 ところが意外なことに、彼は聖ルカ組合という画家・工芸家のギルドに加入して活躍し、31歳のときにはその会長に選出されて、現実の世界でもきちんとした仕事をしているのです。けっして、生活無能力者の芸術家ではなかったのです。また、家庭においては11人の子持ちであり、良き父親、家長でもありました。その日常生活と、あの隔絶された室内での光に満ちた作品たち・・・。まるでフェルメール1号と2号がいるみたいに、その印象は違います。
 二つの顔がどうしても結びつきにくいフェルメールという人物は、この作品の画家と同じで、やはり本当の顔が見えない謎の画家なのです。

★★★★★★★
ウィーン美術史美術館蔵



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