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「白い靴」

エヴァ・ゴンザレス (1879-80年)

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 何気なく脱ぎ捨てられた靴にさえ表情を与えてしまうのが、華麗な静物画を得意としたエヴァ・ゴンザレス(1849-83年)らしさなのでしょう。白い生地の質感、柔らかな形状から、持ち主の温もりまでも伝わってくるようです。

 靴というのは、女性ファッションに特別関心を寄せていた師のマネでさえ、テーマとして取り上げたことはありません。当時、ちょうど既製服が登場し、大量生産によって、デパートでの販売も始まっていました。女性たちにとってオシャレは、現代と変わらず最大関心事だったことでしょう。若い女性の一人だったエヴァもまた、ドレスだけでなく帽子やアクセサリーなどの小物、そして靴にも並々ならぬ情熱を傾けていたに違いありません。この作品の他にも「薔薇色の靴」という作品を描いています。

 エヴァ・ゴンザレスの静物画への興味は、明らかに師マネの影響によるものでした。マネは、生涯に80点以上の静物画を描いています。晩年の花の連作などが特に有名ですが、どの作品も端正で優しく、画家のセンスの良さに裏打ちされた美しいものばかりでした。
 しかし、エヴァの目は、やはり女性画家らしい対象への親密さで、そこに持ち主の体温までも感じ取っていたようです。柔らかなボンボンの付いた布製の靴は、当時の新興ブルジョワ階級の婦人たちの立場を象徴するようです。ボヴァリー夫人が恋人から贈られた靴はピンク色のサテンでしたが、ふとそんな背徳の香りまで伝わってくるような美しい画面です。

 女性たちは、夫や父親の社会的地位や経済力を反映させる意味でも、レースなどをふんだんに使った華美なドレスやアクセサリーを身に付けて競い合っていました。その反面、男性はダークスーツの簡素な服装をするようになり、誰もが平等に見えるような、革命の理念を反映したストイックなファッションが主流となっていたのです。
 この靴の主人は、張りつめていた緊張から解放されて、ホッとくつろいでいるのもしれませんし、傍らには大切な人がいるのかもしれません。ひとときの安らぎが、画面に甘く柔らかい光を与えています。

★★★★★★★
ウィーン、 美術史美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫監修  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎印象派の歴史
       ジョン・リウォルド著、三浦篤・坂上桂子訳  角川学芸出版 (2004-11-03出版)



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