今、まさにペリシテ人に目をえぐられようとしているサムソン。そのかたわらを、切り落とした髪の毛をつかんで走り去ろうとしながら、サムソンを振り返らずにいられないデリラ。明と暗の中の凄絶な一場面です。
レンブラントは当時の画家としては当然、旧約聖書を題材にした作品をよく描いていますが、この時期は特に好んで、背信、悲しみといったつらいテーマを描いているように思います。それは、外から見れば幸せそうな毎日でありながら、妻サスキアとの結婚生活も平坦ではなかったことが大きく影響しているのかも知れません。
しかし、こうしたドラマチックな作品でのレンブラントは、本当に自信に満ちていると思います。のびのびと、激しいテーマでありながら軽やかに、歌うように仕上がっている逸品ではないでしょうか。
★★★★★★★
フランクフルト、 シュテーデル美術研究所蔵