こんな素敵なオネーサンが近くに住んでいたら、口実をつくって毎日見に行ってしまいそうです。
庶民的な雰囲気の漂うこの肖像画のモデルは、近所の古織物商の娘ベルト・ゴールドシュミットという少女で、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を十分に、おかしいくらい意識して描かれています。
コローは彼女に、イタリアから持ち帰った古風な民族衣装を着せ、髪には小さな花をつけた葉冠をつけさせるという念の入れようで、コローなりの「モナ・リザ」をつくり上げようとしたようです。
でも、この作品は、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」よりもずっと人間的な温かい血の流れる、笑ったり泣いたり怒ったりすることのできる「ジョコンダ夫人」に仕上がっている気がします。コローらしい、草と風の香りがする、生き生きとした作品です。
コローには、風景画のプロとしての自覚が強くあったと思います。よくコロー色と言われますが、穏やかな風景画を情緒豊かに描くのが得意だったのです。だからこそ、人物画は、自由な楽しみの領域として取っておきたかったのではないでしょうか。
そういう意味でも、この作品は大のお気に入りだったらしく、生涯手元に置いて、自宅の居間に飾っていたそうです。
「真珠の女」というタイトルの由来は、額にかかる葉飾りの影が、ちょうど真珠のように見えるためだと言われています。本当にかわいらしい清らかな少女は、1889年の最初の公開以来、ずっと絵の中からこちらを見つめています。
★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館蔵