赤いクロスの掛かったテーブルに肘をついて、ついウトウトと眠ってしまっている女性は召使いでしょうか。テーブルの上に置かれた量感のある布地は、これから畳もうとしていたのかも知れません。
午後の暖かく穏やかな光が、ついつい彼女を眠りの国へさそってしまったのでしょう。居眠りする女・・・というテーマは、オランダの風俗画家に親しまれたものらしく、怠け者の召使いが女主人に見つかって大騒ぎになる・・・そんな滑稽さ、日常性が好まれていたようです。しかし、この作品には、そんな騒がしさ、軽妙さがまったく感じられません。ここにあるのは深く静謐な、フェルメールならではの世界です。
フェルメールにとって、室内画は日常生活の舞台ではなく、戸外から差し込む光が作り出す造形の追究の場であったのです。おそらく右手にあると思われる窓からの光が部屋の中に静かに拡散し、拡がりながら、テーブルや椅子や眠る女性をやさしく包み込んで、ひそやかな光の現象に変換していきます。
たぶん今、世界一幸せなひとときを過ごす彼女の姿に、フェルメールの正確で、そして暖かい視線が注がれているようです。
★★★★★★★
ニューヨーク、 メトロポリタン美術館蔵