• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「神殿を浄めるキリスト」

エル・グレコ (1600年ころ)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「WebMuseum, Paris」のページにリンクします。

 グレコが生涯描き続けた同一の主題の一つで、カトリック教圏の人々に人気の高いテーマと言えます。
 いつもの静かで穏やかなイエスとは違う、怒りとともに激しい動きを見せる姿に、グレコは惹かれたのではないでしょうか。

 ヨハネ伝2章によると、“祈りの家”であるべき神殿を、牛や羊を売ったり、両替屋を営むなどして汚した人々を、イエスは綱の鞭をもって追い払ったといいます。この逸話には、異端者の処罰という意味だけでなく、カトリック教会内の粛正と改革、物欲のための宗教活動の禁止という意味も含まれているようです。
 しかし、この作品の神殿は単なる背景と化し、イエスを中心とした人物群がクローズアップされて、物語的な要素が強いものになっています。

 向かって左側の人物たちは、イエスの勢いに圧されて全体的に斜めに傾き、右側の人々は沈思したり語り合ったりして、対照的です。つまり、この作品のテーマである精神の浄化は、霊的生活と内面の祈りを重視するエラスムス系の精神改革運動の理念と一致すると言われています。
 また、背景のアーチのレリーフには、「楽園追放」と「イサクの犠牲」が刻まれています。それぞれに、神の怒りと異端者の追放、また磔刑による贖罪の予型が示されているものと考えられています。

 赤い衣で鞭を振るうイエスは、烈しいけれど、どこか哀しげで、左手の指先の繊細さが、その心の内を示しているように感じられてなりません。

★★★★★★★
ニューヨーク、 フリック・コレクション蔵



page top