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「私と村」

マルク・シャガール (1911年)

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 シャガールの内的世界が美しく結晶された、幻想的で限りなく優しい彼の代表作の一つです。思わず手を伸ばして触ってみたくなるのは私だけではないのでは…と思います。

 シャガールの好きな赤、朱、黄、青、緑が全体を分割しながら、互いの色調を際立たせ、見る者に明確な印象を与えています。牛と、そして「私」の顔がほぼ同じ大きさで向き合い、上には故郷ヴィテブスクの風景、下にはヴィテブスクの樹が描かれていますが、この樹には幸福を象徴する花が咲いていて、それを「私」の指が大切に支えている様子が、故郷に対するシャガールの優しい想いを示しているようです。パリを第二の故郷と呼び、自由な目で故郷を見出すことができるようになったシャガールの笑顔が感じられます。

 1910年の晩夏、23歳のとき、シャガールは憧れのパリに出ます。その時を回想して彼は、「わたしは1910年に故国を離れた。そのころ、どうしてもパリに行かなくてはと決心していたのだ。わたしの芸術の根を養った土はヴィテブスクだったが、わたしの芸術は、木が水を必要とするように、パリを必要としていた。・・・ヴィテブスクよ、わたしはお前を捨てる。いつまでも鰊だけと暮らすがいい」と言っています。そしてまた、「ロシア時代の絵には光がなかった。ロシアではすべてが暗く、褐色、灰色だ。フランスに来て、わたしは色の千変万化の輝き、光のたわむれに打たれた」とも語っています。
 まさにマチエールと狂熱的な色彩の洗礼を受けたシャガールが、想像力のおもむくままに心の世界を明るい色調で描くことに目ざめ、現実の故郷よりもいっそう鮮やかな、魂の故郷と言ってもよい心境で描いたのが、この作品だったのではないでしょうか。

 牛の顔に、乳をしぼられている牛の全体像が重ねられていたり、家や女性が倒置されていたり・・・シャガール的要素が故郷への想いとともに、画面いっぱい詰め込まれた作品です。

★★★★★★★
ニューヨーク近代美術館蔵



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