葡萄、りんご、栗、そして稲穂…秋の実りでいっぱいに埋め尽された顔…一目見てアルチンボルドの作とわかる「秋」の肖像画です。
彼の作品は、たしかにぞっとするほどに気持ち悪く、奇妙な印象を持たれる方も多いことと思います。しかしこれは、秋に実る食物を組み合わせて、季節そのものを擬人化してしまうという斬新なアイディアであり、アルチンボルドの究極の「マニエラ」なのです。
この作品は、彼のもっとも有名な「四季」のシリーズの一つで、他に「春」、「夏」、「冬」もあり、それぞれに個性的です。そして、やはり有名な「四大元素」のシリーズでも、空気、火、水、土を擬人像に表現して、物理的な世界を寓意的な人物として見せてくれているのです。これには、皇帝の支配する現実の世界そのものを肖像画という具体的なかたちで描くことが、北方の大地をいただく宮廷人に受け入れられたことが大きかったからかも知れません。もちろん、「プラハの魔術皇帝」などと呼ばれたルドルフ2世自身の趣味ということが最大の要因だったとは思いますが…。
イタリアに端を発したマニエリスムは、16世紀後半には世界的に広まっていきました。これは国際マニエリスムと呼ばれていて、やはりその担い手は宮廷だったのです。
イタリアのミラノ出身のアルチンボルドは、ミラノ大聖堂のステンドグラスの下絵画家でした。政治や宗教には関心を示さず、錬金術や占星術、博物学、マニエリスム美術の収集に傾倒するという変わり者でしたが、1562年ころにプラハに渡り、神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世の宮廷画家として仕えるようになります。次いで、ルドルフ2世に気に入られて祝祭のためのデザインを担当したのですが、この時期に「四季」や「四大元素」に代表される、植物や動物を組み合わせたグロテスクな「人物像」で有名になるのです。
言うなれば、静物画でありながら肖像画であり、寓意画でもあるというダブルイメージの奇想は、当時のオカルティズムに支配されたプラハの人々にも盛んに模倣されたようです。しかし、アルチンボルドほどの技量と空想力を具えた画家はいなかったのでしょう、彼の追随者は、やがてシュルレアリストたちが登場するまで待たなければなりませんでした。
それにしても….やはり、彼の絵は、食事前には見たくないというのが正直なところです。
★★★★★★★
パリ、 ルーブル美術館 蔵