まっすぐに空に向かって暗い炎のように伸びる糸杉の向こうには、渦を巻いた空が不安に広がっています。
のぼったばかりのオレンジ色の細い月や、太陽のように巨大な輝きを持った星など、まるで宇宙ができたばかりの頃のような、エネルギーの奔流を感じさせます。その中から、雷鳴ともうなり声ともつかない、うねりのような音が聞こえてきて、ゴッホの底知れない死への不安と孤独が胸に迫ります。
天才ゆえのヴィジョンなのかも知れません。やはり凡人には、空がこんなふうに見えることはないような気がします。その深く暗い青を見ると、声を失ってしまうのです。
しかし、よく見ると、農作業を終えて家路に着く農夫や二人乗りの馬車や遠景の家やその灯りなど、日常生活をおくる人間たちも、川の流れのような道路上にごく淡々と描かれています。ゴッホ自身、そのことをはっきりと自覚していたのかどうかは分かりませんが、ここでは不思議なことに、創世期の宇宙と平凡な地上の生活が同居してしまっているのです。
リアリズムを基調にしながらも、幻視的な象徴主義へ向かっていく過程にあるゴッホの、どこか破壊的でありながら創造的な、内なるエネルギーが息苦しいほど伝わってくる作品です。
★★★★★★★
オッテルロー、 国立クレラー=ミュラー美術館蔵