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「総督レオナルド・ロレダンの肖像」

ジョヴァンニ・ベッリーニ (1501年)

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 肖像を描くときは真横から、という当時の慣例を排し、やや斜めから描かれたこの魅力的な肖像画の主はレオナルド・ロレダン(1438-1521年)。1501年にヴェネツィア共和国総督に就任し、1521年まで在位した人物です。
 就任後間もない総督は、物静かで冷静な人格者の雰囲気を漂わせています。ちょっと目を引くのは、コルノと呼ばれた総督帽でしょうか。後方が高く角のような独特な形をしています。大きなボタンの並んだ錦織の豪華な衣装とともに、彼の威厳をいっそう引き立てているようです。
 
 このリアリティーあふれるモニュメンタルな板絵の作者ジョヴァンニ・ベッリーニ(1433-1516年)は、15世紀ヴェネツィア絵画の偉大な創始者であり改革者であるとも言われています。
 そもそもベッリーニ家は画家一族であり、父はヴェネツィア派の始祖ヤコポ・ベッリーニ(1400年ごろ-1470年)、ジェンティーレ・ベッリーニ (1429-1507年)は異母兄弟です。さらに、マンテーニャは義理の兄弟にあたり、この輝かしい系図を見ただけでも、ジョヴァンニは画家になるよりほか道はなかったと納得してしまいます。彼の弟子には、盛期ルネサンスを代表する画家ジョルジョーネやティツィアーノがいるのです。
 そして彼は、だれよりも才能に恵まれました。父・ヤコポの工房で修業したあと、当時パドヴァで活躍していた義兄・マンテーニャの強い影響を受け、力強い線描を獲得します。ところが、ジョヴァンニの画風は硬質なマンテーニャとは対照的に、とても抒情的なものでした。ことに、光と色彩の微妙な推移は彼の心をとらえ続けました。それは、ヴェネツィア派特有の絵画概念でもありました。そこから、広大な風景に人物を情緒豊かに調和させた美しい作品を多く生み出しています。
 ところが、1500年代に入り、ジョヴァンニの画風はまた変化を見せます。多くの若い画家から学ぶことで、より古典主義的で明るくみずみずしい表現の中に精神性と詩情を込めていくのです。

 そんな時期のこの肖像画は、ベッリーニ作品の中でも白眉であり、ルネサンス肖像画の傑作と言われています。青の背景にくっきりと浮かび上がる総督の姿はあまりにも印象的で、皺の一本一本、眼窩の窪み、引き結ばれた唇など、あまりにもリアルで観者は息を呑むばかりです。白と金の織りの入った上着の豪華さは、微妙な光の当たり具合でその輝きを生き生きと変化させながら息づいているようで、触れればその感触までも実感されそうなのです。何という写実、そして抒情性なのでしょうか。私たちは一瞬で、この人物に魅了されます。
 ジョヴァンニは、15世紀で最も多作で優れた肖像画家の一人でした。約20点の肖像画のほとんどは、この作品にあるように、一色をバックにしたものです。その緻密で晴朗な描写には、フランドル絵画の影響も感じられます。

★★★★★★★
ロンドン、ナショナル・ギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008/07 出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)



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