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「羊飼いの礼拝」

エル・グレコ (1612-14年)

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 幼な子イエスを光源にして、マリアからヨセフ、羊飼いたちへ光の輪は拡がって行きます。そして、やがてそれは、「天に栄光、地に平和を」の帯を掲げて宙を舞う天使たちにも拡がって、洞窟のように暗く、孤独な空間は、暖められてゆくのです。

 イエスが白いヴェールの上に載せられているのは、すでに埋葬されるキリストの予徴でしょうか。
 じっと見つめるマリアがかざした手に、イエスも呼応するかのように幼い手をさし出して、自らの誕生の意味を知らせてでもいるかのようです。
 羊飼いたちに混じって、三日月のような角をもった雄牛までもがイエスを見つめている姿に、イエスの誕生が、生きとし生けるものすべてを祝福するものであることを感じさせてくれます。
 赤、青、緑、黄、茶色による原色のコントラストは鮮烈で、光源であるイエスをひき立て、超自然的世界の極みを見せられているような作品です。グレコ晩年の作であり、息子たちの手を借りずに自らの手で描き上げたという事実からも、非常に意味のある作品なのだと思います。
 と言うのは、自らの墓所の祭壇に予定していたものらしく、そのテーマからも、死後の再生を祈りながら描き上げたもののようで、70歳を超えた画家のものとは思えない若々しさと、そしてある種の諦念を感じさせる作品となっています。

 強烈な色彩主義や余白の活用などは、どちらかと言えば20世紀美術運動に先駆するもので、グレコの芸術は、当時としては前衛に過ぎたのかも知れません。
 友人で文人のパラビシーノはその生涯をたたえ、「クレタは生と絵筆を彼に授け、トレドは彼の最上の祖国となり、死とともに永遠に生きはじめる」と墓碑銘に刻んだのです。 

★★★★★★★
マドリード、プラド美術館蔵



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