ブルーの空、白い雲がくっきりと美しく、ため息が出るような夢の世界です。
この作品に関してマグリットは、「私の目の前にカーテンがかかっているように、世界を見ることができた」と語っています。マグリットは、目に見える空が目に見えるからこそ、何かを覆い隠すカーテンであることを示そうとしているのかも知れません。
目に見える世界では、すべての物は必ず他のものを隠します。一つの・・・ここで言えば空が露見するとき、それがカーテンとなって何かほかのものを隠すという、露見と隠匿のちょっと危険な綱渡りを、マグリットは明晰な判断力で意識していたと思います。マグリットは、存在の裏面にあるものを巧みにつかまえ、それを静かに慎み深く暗示することのできる稀有な画家なのです。
ルイ・スキュトネールは1945年に発刊されたマグリット論『銘文』の中で、「彼は牢獄から逃れるために牢獄を利用した」と書いています。この作品を論じるうえで、これはあまりにも的確な表現と言えます。
マグリットはカーテンをかけることによって、その裏側に開かれた世界をはっきりと意識し、それを美しく暗示しているのです。
エドガー・アラン・ポーの詩的な厳格さを愛したマグリットには、イマジネーションの甘さよりも形而上学こそがふさわしいかも知れません。しかし、脳細胞で思考する画家でありながら、マグリットの提供する世界には霊感に似たときめきが隠しようもなくて、その意味を汲みとれたと思った瞬間に再び秘密のカーテンがおりてくるような不思議さにあふれています。
作品とタイトルがほとんど一致しないマグリットですが、ここにはたしかに謎めいた、美しい世界が展開されています。
★★★★★★★
個人蔵