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「美しきウィーンの女性」(イルマ・ブリュネルの肖像)

エドワール・マネ (1880-82年)

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 マネは、都会的で洗練された女性の肖像を好んで描きましたが、特に1879年から82年にかけては数多く描いています。
 生粋のパリっ子であり、社交的でダンディーなマネの周りには、いつもたくさんの女性が集まっていたのです。この美しいプロフィールを持った女性も、晩年のマネの最も親しい女友達であったイルマ・ブリュネルです。タイトルにもあるように、彼女はそれは美しいウィーン女性で、マネのアトリエを訪ねては、しばしばモデルとしてポーズをとっていたといいます。
 マネは女性たちが最もエレガントに見えるドレスにこだわりましたが、それ以上に、黒い帽子をつけさせることを好んでいたようです。彼女もまた、大きな黒い帽子を身につけることで、その肌の白さ、なめらかさが際立っています。

 ここで気がつくのは、マネがあえてパステルを用いて描いている点かもしれません。マネがパステルを用いて肖像画を描くようになったのは晩年のことでした。病に冒されて絵筆を自由にとることのできなくなっていたマネには比較的容易に着彩のできるパステルが使いやすかったのかもしれません。
 パステルは粉末顔料に粘着剤を加え、棒状に固めたもので、油彩と違って乾燥しても色合いが変化することなく、初めから効果を確かめることのできる画材です。線描に関しても太さ、細さが自由になりますし、仕上がりが明るく、柔らかいことも特徴的です。制作が迅速に行えることも、病にむしばまれたマネにとっては嬉しかったに違いありません。

 しかし、パステルを用いた最も大きな理由は、別にあったような気がします。パステルには、みずみずしく自然な味わいがあることをマネは熟知していたのでしょう。殊に、女性の肌の柔らかさ、なめらかさの表現にパステルはぴったりだったのです。その時代を生き生きと呼吸する洗練された女性たちの、その瞬間の気品、美しさをとどめるために、マネはあえてパステルを好んで用いたのではないかと思うのです。
 マネの描くパリジェンヌたちは、当時と全く変わることのない輝きとマネの愛情に包まれて、大輪の花のように確かに画面の中に生き続けているのです。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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