• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「聖ベルナルドゥスの幻視」

フラ・バルトロメオ (1504年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「Web Gallery of Art」のページにリンクします。

 ここには、今まさに本を執筆中の聖ベルナルドゥスの前に、天使たちとともに聖母が現れ、ベルナルドゥスの執筆を助けてくれたという奇跡が描かれています。シトー会の白い修道服を着た、まだ年若いベルナルドゥスは、深く崇敬する聖母の出現に、言葉もなく感激にふるえます。

 聖ベルナルドゥスは、ブルゴーニュの貴族の家に生まれ、同時代の傑出した精神的指導者となったシトー会の修道士であり、神学者でもありました。若くして北フランスのクレルヴォーに修道院を創立し、死ぬまでその院長を務めています。クレルヴォーとは「明朗な谷」という意味であり、ベルナルドゥスはその地で清貧の誓いをもって、質素な修道生活をおくったのです。この作品は、そんなベルナルドゥスの幻視の一つであり、このほかに、聖母が自らの乳房を押すと、そこから乳が飛び出して、象徴的に彼の唇を濡らすという逸話や、十字架に架けられたキリストの腕が十字架から離れ、前かがみになって聖人を抱擁するというものもあり、多くの美術作品のなかで、ベルナルドゥスの神秘家的な性格がとりあげられています。

 それにしても、なんと躍動的な聖母子でしょうか。天から舞い降りたばかりの聖母は、空中にふわりと浮かんだ姿のまま、元気そうな幼な子を軽々と抱いています。さらにこの画面の中で聖母は、ただ中心人物としてそこに存在するのではなく、軸心としての働きをもち、構成全体がその周りを回転しているかのようです。幻視が決して幻視ではなく、ベルナルドゥスが確かに体験したものであることを信じるように、画家は厳格で抑制した画面の中で精一杯、描線によって形態を一つ一つつかみ出そうとするかのようです。

 フラ・バルトロメオは初期ルネサンスから盛期ルネサンスへの過渡期に活躍したフィレンツェ派の画家でしたが、1499年、ドミニコ会修道士サヴォナローラの思想に心酔し、1500年にサン・マルコ修道院の修道士となっています。様式的には、ダ・ヴィンチやミケランジェロの明暗法や構図の影響を受け、ラファエロと並行するようにして画境を進展させました。ただ、彼は、ラファエロほどに柔らかく美しく想像力豊かな天才には恵まれていなかったかも知れません。そして、もしかすると、その表現は、空疎なレトリックと評されることもあったかも知れません。
 しかし、フラ・バルトロメオの中にひそむ彼ならではの神秘的要素と静謐さはとても独特で、単純さと荘重さが無理なく同居する魅惑的な世界なのです。そして、その格調高い古典的な画風は、一度魅せられると離れがたい、深い精神性に満ちています。
 私たちは、フラ・バルトロメオによって描き出された、まさしく夢のような聖母の姿に、聖ベルナルドゥスとともに、声もなく見とれてしまうのです。 

★★★★★★★
フィレンツェ、 ウフィッツィ美術館 蔵



page top