• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「聖マタイのお召し」

ミケランジェロ・カラヴァッジオ (1597-1602年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「WebMuseum, Paris」のページにリンクします。

 収税吏マタイは、ガリラヤ湖のほとりの収税所に座り、いつもどおりテーブルの上で貨幣の勘定をしていました。すると突然、暗い室内にキリストが現れ、彼に手をさしのべて言います。
「我にしたがえ」。

 マタイ伝に出てくる「召命」の物語は、こうして劇的な明暗の対照のなかに示されます。突然のキリストの出現とその言葉にびっくりしたマタイは思わず、自分のことかと我が胸を指します。そのマタイの驚きは、一条の光線….カラヴァッジオ光線とさえ呼ばれる一方向の光によって、劇的に高められます。
 この場所は、収税のための役所であるはずなのですが、場面としては、まるで居酒屋で賭け金の勘定でもしているような雰囲気があり、それがいっそうドラマチックな緊張感を盛り上げています。カラヴァッジオは、聖なる場面をリアルに再現することで信仰への説得力を高め、ごく日常的な情景を一挙に聖なる世界へ昇華させるちからを持った画家だったのです。

 エル・グレコがスペインで活躍していたころ、同じくバロック絵画最大の巨匠として、イタリアにカラヴァッジオが登場します。この作品のキリストの手のポーズを見ても、ミケランジェロの『アダム創造』から借用されたものと思われ、カラヴァッジオの非常に斬新な表現も、一面ではルネサンスの伝統に支えられたものとも言え、彼が決して聖なるものの俗化を目指した画家でないことは十分に読み取ることができるのです。しかし、カラヴァッジオの描く宗教画の現実感は、ともすれば冒涜的と見なされ、教会から引き取りを拒否されるようなこともあったようです。
 それでも、現実感にあふれた写実的な描写と、彼独特の明暗対比によって、その宗教観はきわめて印象的に表現され、彼の様式はローマやナポリに「カラヴァジェスキ」と呼ばれる多くの追随者を生んでいきます。
 彼の人生は、その作品と同様に、劇的で波瀾に富んだものでした。1606年にローマで知人を刺殺し、追われて、マルタ島やシチリア島を転々としながら、それでも制作を続けています。しかし、彼が17世紀西欧絵画に決定的な新機軸を打ち出したことに変りはなく、彼の様式はヨーロッパ中に広まり、そして、ジョットから300年、宗教画に新しい風が吹き込まれたのです。

 ところで、この作品に描かれた聖マタイは、もちろん福音書記者として有名ですが、彼はキリストの昇天後、エチオピア、ペルシャを伝道して歩いたと言われています。しかし、最後は迫害に遭って殉教したという説が有力ですから、画家の生涯と重ね合わせて、何か暗示めいたものも感じてしまうのです。

<追記>
 この作品の中で、マタイが中央の男性ではなく、一番奥に座って一心にお金を数えている青年のほうであるとの説を、T. Chikさんよりいただきました。(2007年9月21日)
 現在では、こうした罪の現場であってさえ、主はお召しになるのだというメッセージが込められているという意味でも、マタイ=青年の説が有力であるとのことです。 
貴重な情報を、ありがとうございましたm(__)m

★★★★★★★
ローマ、 サン・ルイージ・ディ・フランチャージ聖堂 蔵



page top