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「聖マルコ」

ドナテッロ (1411-13年ころ)

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 四福音書記者の一人として有名な聖マルコは、ヴェネツィアの守護聖人とされています。書物を片手に、地平線を見つめる聖マルコの威厳と、そして今にも動き出すのではないかと思わせる柔軟さは、イタリア・ルネサンス最高の彫刻家 ドナテッロの、飛躍的に自由な発想から生まれたものです。

 それまでの、後期ゴシックの美術とは対照的に、初期ルネサンスの美術は、古典古代における自力で立つ彫像を甦らせました。つまり、古典芸術における均斉ある動きが回復されたのです。ドナテッロは、この核心的な成果をたちまち習得し、自らのものとしました。彼の造る像は人間らしい関節を持ち、自由な運動の可能な構造を持ったのです。この聖マルコもまた、衣は身につけていても、その下にはきちんと人間としての身体を持ち、衣はその身体によって形づくられているに過ぎません。聖マルコはこの衣服を脱ぐことも出来、もし建物の背景を取り去ったとしても、その堂々たる威厳は全く損なわれることがないのです。

 ドナテッロは、言うなれば、ルネサンス最初の孤独な天才でした。自らの内面から、新しい像を創り出さねばならぬという使命感に似たものを感じていたように思えます。彼は、自らが読んだ聖書の体験から、福音書記者の姿を心に描き、目覚ましい威容をもって、手で触れることのできる形として実現してみせたのです。
 ドナテッロは、自ら制作中の作品に向かって、
「話せ、話せ、話さないならペストにかかって死んでしまえ!」
と叫んだと言われています。
 伝統を捨てて、自分の命と引き換えにでもするかのように彫刻に命を与え、自分自身が心に描いたものを忠実に表現することに徹した芸術家だったのです。

★★★★★★★
フィレンツェ、 オルサンミケーレ聖堂 蔵



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