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「聖ユスタと聖ルフィナ」

バルトロメー・ムリリョ (1665-66年)

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 聖ユスタと聖ルフィナは伝説上のキリスト教殉教者であり、セビーリャとプルゴスの守護聖女でもあります。甘くやさしい、ムリリョらしい夢のような筆致で描き出された二人はとても美しく、信仰に殉じる強靱な意志を持った女性たちであることを忘れてしまいそうです。
 通常、聖ユスタと聖ルフィナを描く場合、とても豪華な衣装を身につけた女性像とするか、または下層階級に生きる女性たちとして描くかのどちらかなのですが、セビーリャの大画家ムリリョは、市井に生きる心正しく慎ましい女性たちとして描いています。こんなところにも、「薄もやの様式」と言われる光に溶け込むような柔らかい画面を実現し、暗い世相の中で民衆の心をとらえたムリリョらしい表現を見てとることができます。

 二人は、セビーリャの貧しい陶工の娘で、陶器を売って生計を立てていました。ある日、アドニスの祭日にウェヌスの神殿で用いるために陶器を買いに来た人々といさかいを起こしてしまいます。ローマの神々を祝福するために自分たちの陶器が使われるのを拒んだため、売り物の陶器を壊されてしまったのです。そのため、二人は異教の神の像を破壊し、ローマの長官によって涜神の罪でとらえられ、拷問をうけて処刑されてしまうのです。
 そんなつらい運命をたどった姉妹ですが、二人の姿はチョット不思議で、興味をそそられます。棕櫚を持つ姿は殉教者のしるしですからわかるとしても、素焼きの塔を手にしている様子には、なかなか楽しいものがあります。これは、二人が守護者ともなっている、セビーリャ大聖堂のヒラルダ塔の雛形なのです。 1504年の大暴風雨の折、この塔が二人の祈祷で救われたと伝えられる為なのですが、聖人たちの持ち物にもユニークなものがあることに、あらためて驚きを感じます。また、足元に素焼きの壺が転がっている様子にも、二人の仕事が見てとれ、フランス、モントーバンの陶工たちの姉妹への崇敬の念は、ルッションのプラト・ド・モロ教会堂が彼女たちに捧げられたことからもわかります。

 ところで、この作品は『聖レアンドロと聖ボナヴェントゥーラ』の対画としても知られています。聖レアンドロはセビーリャの大司教だった人物、そして聖ボナヴェントゥーラはキリスト教神学者、神秘論者であり、フランチェスコ会の会長も務めた人物でした。

 また、この『聖ユスタと聖ルフィナ』の油彩による習作が国立西洋美術館に収蔵されています。そして、習作素描がバイヨンヌにあるボナ美術館に所蔵されており、この三作はカプチン修道会のための最初の作品でした。この修道会は、聖フランチェスコの戒律に従った清貧な生活を旨とする修道会として知られています。そして余談になりますが、修道服の色が薄いチョコレート色であることから、「カプチーノ」の名の由来ともなっています。

★★★★★★★
スペイン、 セビーリャ美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎キリスト教美術図典
        柳宗玄・中森義宗編  吉川弘文館 (1990-09-01出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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