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「聖会話」

フラ・アンジェリコ (1450年ごろ)

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 中央に坐す美しい聖母の膝の上で、まっすぐにこちらを見つめるイエスの瞳が印象的です。幼な子ながら、すでにすべてを知っているような賢さが、その顔立ちに見てとることができるようです。

 195×273㎝のこの大作は、サン・マルコ修道院の2階、僧房に面した廊下に描かれた美しいフレスコ画です。サン・マルコ修道院における、フラ・アンジェリコ最後の作品の一つであり、彼の画歴の集大成とも言えるものと言われています。
 聖母子の両側の聖人は、左から、黒衣の修道士会として知られるドミニコ会の創設者・聖ドミニクス、そして初期キリスト教の殉教者で双子の兄弟・聖コスマスと聖ダミアヌス、福音書記者・聖マルコ、さらに聖母子の右側へいって、同福音書記者の聖ヨハネ、中世の神学者で「天使的博士」と呼ばれた聖トマス・アクィナス、そしてスペイン生まれのキリスト教殉教者・聖ラウレンティウス、ヴェローナ生まれのドミニコ会修道士で異端者に対する仮借ない追及によって知られる殉教者・聖ペトルスと続きます。
 聖人たちの身振りは飽くまでも抑えた静かなものであり、ひそやかな会話が聞こえてきそうです。しかし、その眼差しは鋭く、それぞれに特徴的な表情を宿しているのです。なお、手に持つ棕櫚の葉は、キリスト教殉教者の一般的な持ち物です。

 作者のベアト・アンジェリコ(1395-1455年)は、ドミニコ会修道院の中で生涯を過ごした清廉な画僧として知られています。そうした事情も手伝って、彼の作品は、初期ルネサンスで最も感動的で忘れがたいものと認識されているのです。
 しかし、その神々しいイメージだけでアンジェリコという画家を決めつけてしまっては勿体ない気がします。彼のやわらかく澄み切った色彩と叙情性は、厳格な遠近法やルネサンスの持つ近代性を、さりげなく和らげる効果を持っていました。ゴシック様式の幻想的な雰囲気とルネサンスの現実感、写実性を融合させたこと、そしてそれをあからさまに感じさせないことがアンジェリコの、彼らしい優れた点だったのです。
 この作品にも、そんなアンジェリコらしさを見てとることができます。美しい色彩と側面からの清らかな光によって形而上学的な世界が構築される中、同時代の建築家ミケロッツォのものを彷彿とさせる古代風の柱頭にあえて影を作り、画面に立体感をもたせているのです。神秘的で瞑想的な世界に、ルネサンス絵画が獲得した新しい手法をとり入れることによって、聖人たちはとたんに生き生きと呼吸を始めたように感じられます。
 柱頭の影が描かれたことによって、この作品は「影の聖母」とも呼ばれ、今も親しまれているのです。

★★★★★★★
フィレンツェ、サン・マルコ美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎キリスト教美術図典
        柳宗玄・中森義宗編  吉川弘文館 (1990-09-01出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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