「聖家族」
マルティン・ショーンガウアー （1475－80年）
聖母が葡萄の一粒をつまみとろうとする瞬間、幼な子イエスも、背後の暗みから顔をのぞかせた聖ヨセフも、じっと彼女のその細い指先に視線を集中させます。三人の心がそっと一つになったような静寂の時….やさしく美しい聖家族の姿です。
時はまさに実りの秋…。葡萄酒はキリストの血であり、ここではその果実が幼な子の未来を予告しています。こころなしか聖母の表情が悲しげなのは、そのせいなのかも知れません。でも、私たちは、自らの使命を知ってか知らずか無心に葡萄の実を見つめるイエスの、足をばたつかせてはしゃぐ愛らしさに、思わず微笑んでしまうのです。
ドイツのケルンは地理的に見ると当時のネーデルラントに近いこともあって、多くの画家がその影響を受けていました。中でも、ショーンガウアーは、あのヴァザーリがネーデルラント人と勘違いするほどにネーデルラント風の作品を描いています。この聖母の、少女のような可愛らしさもさることながら、自然な風物を扱った穏やかな幸福感は、やはりネーデルラントを感じさせるかも知れません。この時代、ドイツにイタリア・ルネサンスの影響は、まだ及んでいなかったのです。
ショーンガウアーはファン・デル・ウェイデンの作品の模写を多く残しており、しばしばウェイデンとの様式の類似を指摘されています。流麗な曲線を駆使し、哀感に富んだ画風はたしかにウェイデンを感じさせますが、この画面に漂うひそやかな情感は、まさしく甘美な神秘性を秘めた15世紀ドイツのものなのです
★★★★★★★
ウィーン美術史美術館 蔵
ショーンガウアー，マルティン（ドイツ） の作品
北方ルネサンス の他の画家
- バウツ，ディーリック（フランドル）
- ブリューゲル，ヤン（フランドル）
- フロマン，ニコラ（フランス）
- パティニール， ヨアヒム（フランドル）
- ホルバイン，ハンス(子）（ドイツ）
- ブーケラール，ヨアヒム（フランドル）
- メムリンク，ハンス（フランドル）
- クラーナハ，ルカス（ドイツ）
- ボッス，ヒエロニムス（ネーデルラント）
- ファン・レイデン，ルカス（ネーデルラント）
- アールツェン，ピーテル（フランドル、ネーデルラントのマニエリスム）
- カンパン，ロベルト（ネーデルラント）
- ブリューゲル，ピーテル（フランドル）
- ウェイデン，ファン・デル（ネーデルラント）
- フース，ファン・デル（ネーデルラント）
- ダーフィット，ヘラルト（ネーデルラント、フランドル派）
- シント・ヤンス，ヘールトヘン・トット（ネーデルラント、フランドル派）
- クリストゥス，ペトルス（ネーデルラント）
- フーケ ，ジャン（フランス）
- グリューネヴァルト，マティアス（ドイツ）
- マルエル，ジャン（フランドル）
- ショーンガウアー，マルティン（ドイツ）
- アルチンボルド，ジョゼッペ（プラハ）
- ヘームスケルク ，マールデン・ファン（ネーデルラント）
- リーメンシュナイダー，ティルマン（ドイツ）
- ファン・エイク，ヤン（ネーデルラント）
- ヒリアード，ニコラス（英国）
- モル，アントニス
- アルトドルファー，アルブレヒト（ドイツ、ドナウ派）
- デューラー，アルブレヒト（ドイツ）
- カルトン，アンゲラン（フランス、アヴィニョン派）
- マセイス，クエンティン（ネーデルラント）
- ヴィッツ ，コンラート（ドイツ）
- ロッホナー，シュテファン（ドイツ、ケルン派）
- クーザン，ジャン（父）（フランス）
- サセッタ（ネーデルラント、フランドル派）
- フォンテーヌブロー派（フランス）
- ブシコーの画家
- ホッサールト（通称マビューズ）（フランドル）
- ムーランの画家（フランス）
- ランブール兄弟（フランス、国際ゴシック）
- 聖女ヴェロニカの画家（ドイツ、ケルン派）
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