まるで陶器のような聖母子と聖ヨハネ、そして、右側に少し気遣わしげな聖ヨセフ、左側には慈愛に満ちた眼差しのマリアの母、聖アンナです。本当にきれい過ぎるほどに洗練された筆致の聖家族です。
ブロンツィーノはパルミジアニーノなどと並んでマニエリスムの画家として有名ですが、その作品は、その極度に洗練された画面や凝った奇想で閉鎖的な宮廷人社会で享受される、どこか爛熟しきった芸術の感さえあります。
盛期ルネッサンスの古典的調和への意識的反逆、宗教改革時代の精神的不安の表現としてのマニエリスムとはひと味違う、まったく意識を持たずに鑑賞することのできる、なにか退廃的な雰囲気がブロンツィーノの作品には漂っているような気がします。
しかし、それにしてもこの美しさ・・・。理屈はともかく、美しいものは美しい・・と言ってしまうしかありません。
赤ちゃんというよりも、もうすでに子供と言ってよいイエスは、聖母マリアに支えられながらツバメをしっかりと握りしめています。ツバメはイエスの「受肉」と「復活」を表すと言われており、すでにその未来を自ら受け入れ、賢そうな眼差しを私たちに向けています。
そんな我が子を、母であるマリアは少し上体を退いて見守っています。絵画の構成上の必要もあったのでしょうが、イエスに対する、我が子であっても神の子であるという意識から、畏敬の念、そして不安も表現されているのかも知れません。
予言者ヨハネは十字の錫を置いて、イエスにリンゴを差し出しています。リンゴは何と言ってもアダムとエヴァの楽園追放の因となった知恵の実です。人類の神に対する裏切りの印であるリンゴを差し出すことで、イエスがやがてその贖罪のために犠牲となることを暗示しているのでしょう。
劇的な暗みを帯びた空と異様に赤く輝く城砦が不安をかきたて、どこか危うい印象の残る聖家族となっています。
★★★★★★★
ウィーン美術史美術館蔵