どこかの国の女王様の戴冠式と見まがうばかりの華麗さ…。聖母マリアはまさにここで、天の女王として迎えられたのです。
真夜中に天の軍勢を従えて来臨したキリストの腕に抱かれて、聖母の魂は天に昇りました。そして三日後、復活したマリアは魂に肉体をともなって昇天します。そして、聖母の物語もクライマックスを迎え、彼女は天で戴冠するのです。
天の讃歌が彼女を迎えます。天使や聖人たちが群れをなし、旧約の中の族長たちがこぞって祝福するなか、キリストが聖母を傍らの玉座に招き、彼女に冠を授けるのです。キリストの前にひざまづいたマリアは、天の女王にふさわしい豪華な衣をまとい、「来たれ、わが選ばれし御方よ。われ汝をわが玉座につかせん」というキリストの言葉そのままを静かに受け入れるのです。
フラ・アンジェリコは、生涯に少なくとも三回、この聖母戴冠をテーマに描いていますが、この作品は最も晩年のものです。ドミニコ会士であった彼の作品は、宗教主題に限られていました。師であるロレンツォ・モナコのゴシック的な優美さがフラ・アンジェリコの大きな特徴ですが、それに加えて人体や空間の三次元的描写、鮮明な色彩によって、ゴシックから一歩踏み出した彼独自の情感に満ちた画風を築き上げたのです。
そして、その甘美な作風と高潔な人柄から「天使のような僧」と呼ばれ、キリストの磔刑図を描きながら涙を流したほどに信仰の篤い人物だったと伝えられています。そんなフラ・アンジェリコの描く戴冠図は、華麗な色づかいでまとめられながら、あくまでも夢見るように美しく、そして穏和でやさしい心地良さに輝いているのです。
★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵