ヨアキムとアンナの夫妻は、神意によってマリアを授かったときから、将来わが子を神に捧げることを誓っていました。13 世紀の『黄金伝説』では、「彼女が3年の月日を満たし、乳を吸うのをやめた時」にヨアキムとアンナが奉納物を持ってマリアを神殿に連れて行ったと述べられています。神殿には、15段の階段がしつらえられており、祭司が待つ祭壇へは、その15段の階段を昇らなければなりませんでした。この数は、旧約聖書詩篇の「都もうでの歌」の15篇に由来したものです。
「聖母は階段の一番下の段に載せられると、相応の年齢になっていたので、手助けなしにその階段を昇って行った。両親は奉献を済ませると、彼らの娘を他の乙女たちとともに、神殿に残して行ったのである」
と、こうして神殿での生活に入るわけですが、この場面はまさに、マリアが一歩一歩踏みしめるようにして階段を昇って行く瞬間を描いたものです。
光り輝く幼女は、もうすでに自らの役割を十分に理解している様子で、他を圧する神々しさ、美しさは、やはり宗教画という制約などものともせず、そこに荘厳で華麗な世界を築き上げていったティツィアーノならではの表現であると思います。
この作品は、実は横の長さが775cmという大画面です。現在、アカデミア美術館に併合されている、かつてのカリタ同信会館の「アルベルゴの間」のために描かれたもので、現在も同じ場所に置かれている大作です。その繊細で鮮やかな線と色づかいは、ラファエロと同じ頃に生まれ、ミケランジェロと同じくらいに長生きした、このヴェネツィア派最大の巨匠の手によって実に魅惑的な画面を構成し、今も生き続けているのです。
★★★★★★★
ヴェネツィア、 アカデミア美術館 蔵