この作品はタイトルのとおり、聖ルカが聖母子を描いている図です。聖ルカといえば、「ルカによる福音書」の記述者とされているわけですが、彼は実際には医者だったそうで、この絵の中でルカがつけている衣裳も、14世紀の医師のものなのです。
そのルカが絵を描くの?…と、ちょっと不思議な気もしますが、実は聖ルカは画家の守護聖人であるとされていますから、ここにウェイデンの深い思い入れが見てとれます。
また、「ルカによる福音書」は、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四つの福音書のなかでも特に絵画的であると言われ、クリスマスの降誕劇をはじめとしてキリスト教美術、演劇にとられている場面が多いのも、ルカを画家に見立てた大きな理由なのかも知れません。
深い感動と厳粛な表情のルカの前で、幼な子イエスに乳を含ませる聖母マリアは….これはまた、ちょっと現実離れをした清らかさで、感動的です。静かで落ち着いた面立ちのマリアですが、彼女だけがポッと白く清澄なイメージなのは、実は、ここに現実に存在しているわけではないからなのだと言われています。
聖母子を描きたい…という画家の切実な願いに応え、天から舞い降りた聖母….ということなのだそうで、どうりでその清らかな美しさが際立っているはずだ、と納得させられてしまいます。静かに静かに、普通の人間の二分の一くらいの速度で呼吸しているような聖母の穏やかさに、こちらまで安らいでしまう…そんな、心に深く沈潜してくる作品です。
背後に開かれた町の様子、そこに生きている人々の姿や景色も、拡大鏡でじっくり眺めることができるほど きっちりと描かれていて、まったくぼやけたところがありません。まさにファン・デル・ウェイデンらしい、のびやかな雰囲気を持った作品となっています。
★★★★★★★
レニングラード エルミタージュ美術館蔵