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「聖母子」

アンブロージオ・ロレンツェッティ (1340-45年)

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 お母さんの顔は、赤ちゃんが最初に覚える人間の顔だといいます。
 おとなしく抱っこされていた赤ちゃんが、何を思ってか、それとも夢でも見たのか、急に小さな頭を反らせて、お母さんの顔をじっと見上げることがあります。そんな時、自分を斜め上から見守る愛に満ちた眼差しに行きあたり、赤ちゃんはとても安らかな感覚をおぼえるものなのではないでしょうか。長い人生のなかでも、母と子がこれほど間近で視線を合わせる時間は本当に短い間だけです。しかし、その瞬間に感じたしっかりした腕や豊かな胸への信頼感は、もしかすると、その子のなかに一生残るものなのかも知れません。

 繊細で優美な聖母子像は、礼拝される対象としての祭壇画の硬さがとれて、見つめ合う姿という当時としては新しいスタイルで描き出されています。また、聖母の円光、上部のアーチ型装飾に描かれた花模様、そして聖母の被り物に描かれた植物柄、アンブロージオの特徴でもある温かい色彩の裏地も嬉しくなるほどの美しさです。

 14世紀シエナ派の代表的な画家アンブロージオ・ロレンツェッティは、ピエトロとの兄弟画家です。シエナを中心にフィレンツェでも活躍したこともあって、シエナ的要素とフィレンツェ的要素を結びつけた画家と言われています。兄のピエトロに比較したとき、アンブロージオの作品は、やや荘重さに欠けるかも知れません。しかし、より親しみやすく、絵肌の持つ感触は、より甘やかで優しく、特にその色彩の美しさにはアンブロージオの優れた感覚を見ることができます。
 ロレンツェッティ兄弟は互いに独立して仕事をしていましたが、遠近法に対する深い理解、自然主義的な描写という点では似通った興味を持っており、様式という点でも次第に近づいていきます。そして、彼らの遠近法は、フィレンツェ画派における遠近法の発達を100年も先取りした、とまで言われるようになり、その構図や図像の独創性は後のロレンツェッティ兄弟の評価を決定づけることになります。兄弟はおそらく、1348年に、そろってペストで死去したとみられています。

 決して強い主張を持った作品ではありませんが、この85×57㎝の板絵に描かれた聖母の目にあふれる愛しさが、赤ちゃんの無垢な目から流れ込んで、赤ちゃん自身も愛と信頼に満ちた存在となっていくのがわかります。

★★★★★★★
ミラノ、 ブレラ美術館 蔵



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