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「聖母子とマリアの生涯」

フィリッポ・リッピ (1452年)

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 幼な子イエスはその小さな可愛い手にざくろを抱え、その種子の一粒をつまんで愛らしく天を見上げています。ざくろは「教会」「君主」の象徴と言われているもので、幼いながらも、すでにその運命と共にあったイエスを思わせてくれます。
 ちょっとだけ開いた唇からは生えたばかりの小さな歯がのぞいて、ぷっくりと肥った足の親指をからませている様子もなかなか元気そうで、絶えずじっとしていない、健康な赤ちゃんそのもののイエスの姿に、思わず微笑んでしまいます。

 ところで、前景にすわる聖母子の背後の床が一段高くなって、そこにマリア自身の誕生やその両親の姿など、過去の出来事が描かれている・・・というのは、非常に珍しい構図で、興味深いものがあります。
 奥のベッドで上半身を起こしているのが聖アンナで、黒い服の女性が差し出している、これも白い布にくるまれた赤ちゃんがマリア自身と思われます。聖アンナは、無原罪のマリアを産んだ女性なので、彼女自身もまた無原罪の存在だと言われていますが、まだ十代と思われる聖アンナの無垢な姿が印象的です。
 一方、右奥の中二階のような所からさらに階段をのぼって、しっかりと手を取り合っているのがマリアの両親である聖ヨアキムと聖アンナと言われていますから、この絵は聖母子に・・・というよりも、聖母マリアに捧げられた作品と言っていいかも知れません。そのせいか、前面でイエスを抱くマリアは、自らの背後に展開される過去の出来事にじっと耳を傾けているような、静かで内省的な表情をしています。

 ところでこの絵は、当時のイタリアの、貴族階級の邸の内部や衣装、風俗を知ることのできる作品でもあります。右後方でかごのようなものを頭に載せて運んでいる女性のヘアスタイルなども、リッピらしくオシャレで、そのドレスのすそが透けて、脚にまつわる様子やドレープの美しさは、彼の弟子にあたるボッティチェリが描いた「春」の女性たちを思い出させてくれます。また、子供にまとわりつかれて振り返った女性の横顔の美しさにも、清らかでうたれます。
 あくまでも洗練された感覚で、修道僧らしからぬ俗世間を十分に意識に入れたフィリッポ・リッピの、奥行きのある構図の素晴らしい作品です。 

★★★★★★★
フィレンツェ ピッティ美術館蔵



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