天使のひとりがささえ持つ書物に、マリアがペンで何ごとか書き記そうとしています。その向かって右のページの冒頭に「マグニフィカート」の文字がはっきり見えるため、この絵は別名「マグニフィカートの聖母」とも呼ばれています。
円形の窓枠(トンド)で縁どられた聖母子と5人の天使が清らかで美しく、平和な雰囲気に包まれています。
マリアの美しさ、イエスのけっこう賢そうな顔つきもさることながら、5人の天使たちの清純さは印象的です。天使というより、外国の寄宿学校の美少年たち・・・みたいな、わりとトキメキを感じる美しさです。
あまりポピュラーではありませんが、ボッティチェリらしい優雅な作品ではないでしょうか。
しかし、1480年代の中頃、当時のフィレンツェにおける美術活動の様子を報告した書類の中に、次のような記述があります。「ボッティチェリは板絵と壁画における非常にすぐれた画家である。彼の作品は雄勁な画風を持ち、きわめて理知的で、完璧な比例に基づいている」。
つまり、「雄勁」、力強い絵だと報告されているのです。
現在の私たちにとってボッティチェリは、優美で繊細できわめて女性的な画家です。それなのに、当時は力強いと評価されていたということで、何かとても不思議な気がします。
でも、それは、ボッティチェリがそれだけ他の画家にくらべて突出していたということなのかも知れません。多くの人々の賞賛を得ていたからこそ、その名声が「力強い」という表現になってしまったのでしょう。
システィーナ礼拝堂のフレスコ画を制作するためにローマに出かけたことを除けば、1510年に亡くなるまで、この優雅な聖母子を描いたボッティチェリはフェイレンツェを出ることがありませんでした。まさにフィレンツェが誇る最大の画家だったのです。
★★★★★★★
フィレンツェ、 ウフィッツィ美術館蔵