レンブラントは本当に自画像の多い画家で、初期から晩年まで、生涯で100点近く描いたと言われています。どれも、その時々の精神状態をよく表した深い呼吸を感じるものばかりですが、とりわけこの最後の自画像は胸に迫るものがあります。
最晩年にいたってから、長年にわたって集めた美術品をすべて人手に渡し、貧しいユダヤ人区に暮らさなければならないという、他人から見れば不幸のどん底のような人生をおくりながら、ますます純粋に描きつづけるエネルギーとゆるぎない魂を勝ち得た画家の顔がここにあります。温かく豊かな精神と自己を信頼しきった落ち着きに満ちて、きちんと仕事をしてきた人はこういう顔になるんだなあ・・・と思わせてくれます。
自画像が多いということは、自己愛が強いというよりも、自己を見つめる目が厳しいということなのではないでしょうか。そして、人間存在そのものに強い興味があるからこそ自画像を描き続け、人間を愛し続けたのではないでしょうか。
晩年にいたっても、このゆるぎなく力強い筆致とやさしい明暗には感動するばかりです。レンブラントはみごとに、その魂までも本物の画家であったのです。
★★★★★★★
ロンドン、 ナショナルギャラリー蔵