1888年2月、ゴッホはパリの生活に疲れてアルルに移ります。そして、アルルの明るい光と色彩は、一気にゴッホの中の色彩画家としての芽を花開かせることになります。
そんなアルルに着いて間もないころの作品がこの「花ざかりのスモモの果樹園」で、空気までもキラキラと輝く、生命への賛歌・・・という感じです。たくさんのスモモの木が自由に手を広げ、光を受けた葉の表現も生き生きとして、すべてが健康すぎるほど健康に輝いています。
これを見ると、ゴッホが求めていた幸福感とはこれだったんだな、と素直に実感できます。この木々のように青空の下で生き、制作し、平和な晩年を迎えたかったんだ・・・と、そんな気がします。
しかし、そんなゴッホの願いとは裏腹に、彼の精神にアルルの光は強烈すぎ、彼の心は急速に蝕まれていきます。
ゴッホの精神病理学的な研究で有名なシャルル・モーロンは、ゴッホの精神的危機であるウツ病は冬に訪れるとの見解を述べています。そういう意味では、アルルの最初の時期はその反対で、精神的高揚感、太陽の下での長時間の制作、またアプサントやタバコによる軽い躁状態であったというのです。そのため、この絵のような明るい戸外での作品も多く、活動的で前向きな状態が続きます。
しかし、かえってそれが彼の精神にはダメージとなり、ゴッホの心は急速に病んでいったと思われるのです。
この明るさが、もし本来的な気質のものであったら、これほど有名な画家になれなかったとしても、それはそれで幸せな人生であっただろうに・・・と思います。
★★★★★★★
アムステルダム、 ファン・ゴッホ国立美術館蔵