思わず、息が止まりそうな美しさ。見る者は皆、目を奪われます。しかし、すぐに、その氷のような冷たさに立ちすくむのです。これがパルマのパルミジアニーノの様式…..とは知っていても、まだ20歳を過ぎたばかりの若者の感性とは、やはりにわかには信じられないような気がします。
1520-30年代のパルマには、流行の最先端をいく画家が二人存在しました。一人は、16世紀エミリア派の巨匠コレッジョ、そしてもう一人が、初期マニエリスムを代表する画家パルミジアニーノ(1503-1540年)でした。パルミジアニーノは、13歳年長のコレッジョを心から尊敬していましたが、二人の作風は対照的と言ってもいいものでした。柔和な古典様式を特徴とするコレッジョに対し、冷たく知的な様式を持ったパルミジアニーノは、いつの間にかライバルのような存在となっていたようです。若いうちに開花した才能は、まるで切れ味鋭い刃物のような、恐れを知らぬ制作ぶりだったことでしょう。
しかし、1524-27年、パルミジアニーノはローマに赴き、クレメンス7世の宮廷に身を置きます。そこで、初めてミケランジェロやラファエロの強い影響を受けることとなります。そして、この滞在をきっかけに、パルミジアニーノの人物画は極度に洗練され、官能的で唯美的な表現を確立していくのです。
この作品は、そうした時期の質の高い一作であり、その魔術的な魅力によって、ファンの多い作品でもあります。豪華な衣装を身にまとい、陶器のような肌を持つモデルは氷のごとき厳格さでこちらを見つめ、鑑賞者の目も心も引き込んでしまうのです。
しかし、彼女の美しさは、どこか不自然でもあります。顔と首の華奢な表現の割には、肩から下の腕や胴の太さが気になります。手も大きく、殊に手袋をはめた右手は別の生き物のように異様な迫力を感じさせ、背景の暗さも相俟って、特異な印象が残ります。そんなアンバランスさが、かえって見る者に忘れがたい執着を植えつけてしまうのかもしれません。
パルミジアニーノは、その短い生涯の晩年、錬金術の実験に熱中し、絵画制作から離れてしまったといいます。彼の人生の行く末が、このころすでに、画家自身によって暗示されていたようにも感じられるのです。
★★★★★★★
ナポリ、 カポディモンテ美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術史(カラー版)
高階秀爾監修 美術出版社 (1990-05-20出版)
◎オックスフォ-ド西洋美術事典
佐々木英也著 講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
◎イタリア絵画
ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳 日本経済新聞社 (2001/02出版)
◎西洋絵画史WHO’S WHO
諸川春樹監修 美術出版社 (1997-05-20出版)