この聖母の顔の美しさ、気品、やさしさには、しばし言葉を失います。親しみやすく、人間的で血の通った美しさの聖母ならば、ラファエロにしろボッティチェリにしろ、いくらでも見ることができます。しかし、真に神々しく神秘と気品にあふれた聖母というと、やはり、ジョットの描く聖母に尽きるように思います。
マリアはふつう、青いマントに赤い衣・・・が定石なのですが、ここでは純潔を表す白の衣を身にまとっていて、それがまた、その荘厳さをいっそう引き立てています。
フィレンツェを中心としたイタリア・ルネッサンスが華やかに開花しようとする13世紀は、市民階級の経済的興隆が芸術的興隆も招き、同時にアッシジのフランシスコが創設した聖フランシスコ修道会が非常な勢いで伸び、非貴族階級から芸術家を育てるようになった時期でもありました。
ボッカチオが「この世の最上の画家」とたたえたジョットは、「西洋絵画の父」とも言われていますが、ギリシャ的東方的美術をラテン的西方的なものに変革したことで、大きな功績を残した画家でもあります。
そういう意味で、この作品には、ビザンティンの影響と、そこからの脱皮が見られて興味深いものがあります。鼻筋の長い、切れ長の目をした面長な顔はビザンティンの影響を色濃く残していますが、少々焦点の合わない視線や口元のかすかな微笑など、いずれはダ・ヴィンチやラファエロに綿々と引き継がれるであろう甘美さをほのかに示してくれているのです。
ゴシック様式の小さな教会におさまる聖母子に、聖母の象徴である白百合と紅白の薔薇を捧げる天使たちもまた清らかで、やはり、一目見たとき、はっと息を呑む美しい作品です。
★★★★★★★
フィレンツェ ウフィッツィ美術館蔵