すがすがしく清楚な聖母子像は、目が洗われるような美しさです。背景の色彩の効果でしょうか。
ちょうど聖母の胸の真ん中あたりに、原罪を示すリンゴを持つ幼いキリストは、もう一方の手で、純潔を表す棘のない白い薔薇に手を伸ばしています。そもそも聖母は、「棘のない薔薇」と呼ばれています。古い伝説によると、アダムとエヴァが罪を犯す以前、薔薇に棘はなかったとされています。この幼いキリストは、何げないしぐさの中で聖母を讃えているのです。
あまりにも高みに坐す聖なる存在というよりも、その柔和な表情から、人間的なふくらみを感じさせる親しみのある聖母子像です。ここには、ルネサンスらしい力強い様式と、慈悲深く愛に満ちた聖母への民衆的信仰の美しい調和が余すところなく示されているようです。
作者のルカ・デッラ・ロッビア(1399/1400-1482年)は、フィレンツェで活躍した彫刻家でした。初期には金銀細工師のもとで修業したと見られており、古典的様式を身につけたと言われています。1427年に絹織物業組合に登録したときには、フィレンツェ随一の芸術家ギベルティの工房で働いていたことがわかっています。
長く大理石やブロンズ像の仕事をこなしていましたが、やがてレリーフに彩色し、釉薬を塗った美しい作品を制作するようになります。青い背景に白いレリーフが特徴的なこの聖母子像のような作品は、ルカの代名詞とも言えるものです。
施釉テラコッタと呼ばれるこの技法は、湿らせた年度を手や型で成型し、乾燥させて焼成したあと、釉薬によって色をつけ、もう一度焼成するという手の込んだ手法で、施釉テラコッタと呼ばれています。
この技法はルカ・デッラ・ロッビアの創造とされて、彼の名を一躍高めましたが、実は14世紀には既にイタリアの陶工たちによって使用されていました。ヴァザーリは『美術家列伝』の中で、大理石にかわる安価で素早い仕上げが可能なこの技法をルカが好んだのだと記しています。
施釉テラコッタによるルカの作品で最も彼の名声を高めたのが、こうした聖母子の浮彫りでした。その白が奏でる清らかな美しさに、人々は魅了されたに違いありません。
フィレンツェ有数の大規模を誇ったルカの工房は16世紀まで続き、施釉テラコッタによるルカの様式はヨーロッパ各地に広まっていったのです。
★★★★★★★
フィレンツェ、 バルジェッロ国立美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術館
小学館 (1999-12-10出版)
◎西洋美術史(カラー版)
高階秀爾監修 美術出版社 (1990-05-20出版)
◎オックスフォ-ド西洋美術事典
佐々木英也著 講談社(1989-06出版)
◎イタリア絵画
ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳 日本経済新聞社 (2001-02出版)
◎ルネサンス美術館
石鍋真澄著 小学館(2008-07 出版)
◎イタリア・ルネッサンス1 世界美術大全集 西洋編11
佐々木 英也、森田 義之 編集 小学館 (1992-11出版)