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「道化師パブロ・デ・バリャドリード」

ディエゴ・ベラスケス (1632年)

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 ベラスケスの道化師や矮人(エナーノ)を描いたシリーズの中でも、喜劇役者の雰囲気を持つこの人物は、吟遊詩人だという説もありますが、両手のしぐさ、ちょっと大げさに身体を開いた演説調のポーズなど、やはりタイトルどおり「道化師」が正解だと思います。

 ところで、この絵を見て連想する作品・・・それはマネの「笛を吹く少年」です。
  「笛を吹く少年」における際立った特徴は、そのそっけないほどのシンプルさとジャポニスムを思わせる単色の使用でしたが、この作品もまた、背後には床も天井もなく、二つの光源を思わせるかすかな二重の影のみが画面に奥行きを与えるばかりです。
 マネはおそらく、この作品にヒントを得て「笛を吹く少年」を制作したはずです。彼はベラスケスを「画家の中の画家」と称えて惜しみませんでした。天才マネにとっても、ベラスケスは越えがたい山だったのではないでしょうか。

 ところで、ベラスケスの作品の中でもっとも私たちに衝撃を与えてしまうのは、王宮内の道化師や矮人をモデルにした一連のシリーズです。
 この人物もまた、身体が不自由なわけではありませんが、一般社会から閉め出され、王侯貴族たちの退屈をまぎらすためにだけ宮廷内に住まわせられ、養われていたのです。彼のような職業の人は反社会的、反道徳的、そして嘲笑的な存在として、社会的に認められにくかったようです。ベラスケスは、そんな彼らに特別な一章を捧げました。しかも、非常に冷静に客観的な態度をもって・・・。
 こうした、社会から閉め出された人たちにも光を当てようとしたベラスケスの姿勢には、彼が下級貴族の出身であったことも大きく影響していたのかも知れません。貴族たらんとする情熱が彼を芸術家らしからぬ勤勉な宮廷役人にさせていたわけですが、だからこそ、貴族でありながら下層に生きる人々にも自然に目が向いたのではないでしょうか。

 イノケンティウス10世が肖像画に対して褒賞を与えようとしたとき、
「私は筆を持って王に仕える従者に過ぎない」
と言ってそれを断ったというベラスケスの態度は、芸術家と役人という二つの世界を難なく平然と生き抜いてみせた彼の、精一杯の矜持だったのではないかと思うのです。    

★★★★★★★
マドリード プラド美術館



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