• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「酒を飲む兵士」

マルク・シャガール (1912年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「CGFA」のページにリンクします。

 なんだか楽しくて、ウキウキしてくるような作品です。
 帽子を飛ばして陽気になっている兵士、その下方には女性といっしょに踊っている兵士、窓の外に見える赤や黄色やオレンジの色彩・・・。すべてが動的でダイナミックな構図に仕上がっています。

 ふつう、この作品は酒を飲む兵士を描いたものとされています。たしかに、飛び上がった帽子や赤ら顔の雰囲気は酔っているように見えますが、実際には、この兵士はロシア特有の湯沸かし器サモワールからお茶を注ごうとしています。外の寒さに比べ室内はとても暖かく心地よくて、そのために彼は上気してしまっているのでしょう。
 パリにおいて、ロシアの思い出をキュビスムふうに描いたものですが、素朴に豊かに描かれたこの作品の中に、シャガールの心の中にある望郷の念が垣間見えるようで、窓の外の鮮やかな色彩に比べ、テーブルの淡い紫がどこかもの哀しく、抒情的です。

 ユダヤ人としてポーランド国境に近い帝政ロシアのヴィテブスクに生まれ、やがて故郷を離れて他国へ亡命しなければならなくなったことは、やはり画家が幻想的な絵を描くことに大きな影響を与えているのだと思います。
 思いのままに夢を描くことは、シャガールに生きることの根拠を与えています。故国への郷愁を深い幻想に高めてゆくことで、シャガール自身、自らの心を癒やし、そして生きる歓びを歌ったシャガールの作品を見て、私たちの心も安らぎを覚えるのです。

 重力を無視して浮遊する人物や、一つの画面にさまざまなものが現実の比率を無視して大小に描かれた様子は一見荒唐無稽なものに見えますが、そこには空間的にも時間的にも遠く隔たっているはずのものを結びつけようとする、画家の無意識の意識が働いているような気がします。

★★★★★★★
ニューヨーク、グッゲンハイム美術館蔵



page top