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「鏡のヴィーナス」

ディエゴ・ベラスケス (1650年)

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 ベラスケスは、こういう絵も描くのだ…と、目を見張った作品です。
 後ろ向きの女性の光沢のある肌の香るような美しさ、肩から背中、そして腰から足にかけて流れる青ざめた曲線は優雅で、本当に魅力的です。
 この魅惑的な女性は美と愛の女神とされるヴィーナスで、その前で愛らしいキューピッドが一生懸命に鏡を支えています。
 自らの美しさにうっとりと見とれているヴィーナスとばら色のキューピッド…..鏡をはさんだ二人は実にバロック的な空間を構成し、ヴィーナスが敷いている、女神でありながら十分に肉体の重量を感じさせる濃いグレーのシートとキューピッドの後ろにかかる深紅のカーテンの対比が、この作品に甘くない緊張感を与えていて、硬質な印象です。

 ところで、この作品の重要な主題はヴィーナスと鏡です。鏡は真理と虚栄の象徴であると言われていますが、この作品では、画面に深い奥行きを与えていて、見る者に、もう一つ向こうの別の世界の存在を感じさせてくれます。また、私たちには絶対に不可視なヴィーナスの顔も映し出されていて、そこには生身の女としてのヴィーナスがくつろいだ笑顔を見せている様子がうかがえてしまって、何か、見てはいけない秘密を見せられてしまったような不思議な面映ゆさにとらわれてしまうのです。

  1649年の1月、ベラスケスは弟子のパレーハを伴って、ローマに長期滞在をしています。この作品は、そのイタリア旅行のころの作品と思われますが、永遠の都ローマで宮廷の要職と雑務からしばし解放されたベラスケスは、かの地の自由な雰囲気を思い切り満喫したものと思われます。そんな環境の中で制作されたこの「鏡のヴィーナス」は、現在、ゴヤの「裸のマハ」と並ぶスペイン裸体画の代表作と言われているのです。
 鏡の中のもう一つの世界….それは、生涯を宮廷という閉ざされたガラスの城で過ごしたベラスケスが、あくまでも客観に徹し続け、誇張、情熱、演劇性を特徴としたバロック美術の概念を消化吸収したうえで、作品を彼独自の偉大な様式に高めるためにどうしても必要な世界だったのかも知れません。

★★★★★★★
ロンドン ナショナルギャラリー蔵



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