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「騎士号授与」

エドモンド・レイトン (1901年)

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 今まさに、騎士の家に生まれ、騎士となるべく育った少年は、一人前の騎士として叙任されました。彼は君主から、剣の峰で右肩に3度の刀礼を受けたところです。これに応えて新たな騎士は、君主に忠誠を誓うのです。作品の背景には盾と槍が見えます。さらに彼は甲冑と鎖帷子を身につけています。新たな騎士はこれから生涯をかけて、この姿で君主に仕えることとなります。中世に行われたこの神聖で美しい叙任式を、画家は甘美な画風で描き上げました。

 作者のエドモンド・ブレア・レイトン(1853年9月21日 – 1922年9月1日)はイギリス ヴィクトリア朝時代の優雅な画風の画家です。この作品のように中世の騎士をモチーフとした作品が多く、父のチャールズ・ブレア・レイトン(1823–1855年)も画家でした。レイトンと聞くと、やはりイギリスの画家でサー(卿)の称号を与えられたフレデリック・レイトン(1830年12月3日 – 1896年1月25日)と、その画風の美しさとも相俟って混同してしまいそうですが、2人につながりはありません。
 エドモンド・レイトンは幼いうちに画家の父親を亡くし、ユニバシティ・カレッジ・スクールで学びますが、15歳で退学し茶商人のもとで働いていました。しかしサウス・ケンジントン学校の夜間コースで絵を学び、続いてロンドンのヘザーズ美術学校で学んだ後、21歳で王立芸術院(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ)に入学しています。歴史的な主題を好んで王立芸術院の展覧会に出展を続けましたが、結果的にロイヤル・アカデミーの会員になることはありませんでした。息子のE. J. Blair Leightonも画家となっています。

 ところで、この作品はアーサー王伝説からインスピレーションを得たとされています。美しい君主は王妃グィネヴィアであり、その前に跪くのは円卓の騎士長ランスロットだというわけです。
 グィネヴィア王妃はレオデグランス王の娘です。アーサー王がまだ後ろ盾を必要とした若いころに婚約しましたが、後にランスロットと出会って不倫関係となります。ただ、夫のアーサーは長くそれに気づきませんでした。祝宴の席に2人がいなかったことから告発を受け、ランスロットは逃亡します。そしてアーサー王は、王妃を火あぶりの刑にせざるを得ない状況となります。ただ、すんでのところでグィネヴィアはランスロットに救い出され、彼女はさらに数奇な運命に翻弄されることとなるのですが、ここでは飽くまでも威厳ある君主として描き出されています。

 ヴィクトリア朝の貴族たちは王や王女のロマンチックな物語が大好きでしたから、レイトンの甘美な作品は人気を博しました。彼らが求める夢のような物語を、レイトンはみごとに絵画として提供してみせたのです。しかし、ただ時代の要望に沿ったというだけでなく、重要なのはレイトン自身もこうした騎士たちの、ある種ノスタルジックな姿や生き方を愛したということだろうと思います。彼の描くお姫様や王様のどこか悲しげな遠くを見るような瞳や、画面を包む細やかな光に、画家の心からの丁寧なメッセージを私たちは感じ取ることができるからです。

★★★★★★★
 個人蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎図説アーサー王物語 普及版
       アンドレア・ホプキンズ著、山本 史郎 (翻訳)  原書房 普及版 (2020-4-16出版)
  ◎366日の西洋美術
       瀧澤秀保著  三才ブックス (2019-8-22出版)



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