女性が彫像に変化しようとしているのか、それとも彫像が体温をもって徐々に生身の女性に変身しているのか・・・。
この、とても不思議な瞬間に立ち会わされた鑑賞者は、しかし、その神秘的な美しさに魅了され、どちらがどちらに変化しようと大した問題ではない・・という気になってしまいます。おそらく、彼女の肩に乗った一羽の鳩だけがその秘密を知っていて、空と同じ青色に石化した彼女の肩の上で、この永遠の秘密と奇跡の立会人として、象徴的にその無垢な視線を遠くに投げているのです。
この絵にはいくつものヴァージョンがありますが、「生ける彫像」というテーマはシュルレアリスムの芸術に長い歴史をもっていて、エルンストやデ・キリコにまで遡ることができます。
しかし、生身の彫像をこれほどリアルに美しく描いてくれた画家はやはりマグリットに尽きますし、見る者を複雑な気分にさせ、そしてため息をつかせてしまうのもマグリットだけです。
ここには、「成長する生命」と「消滅する生命」の強烈な対比があります。造形的才能に恵まれたマグリットが、それをテーマとして作品としたとき、その重要な要素は彼の古い記憶・・・墓場ではじめて画家を見たときの強烈な記憶に還っていくのかも知れません。
墓場という死の世界で、はじめて魔術師のような画家と出会って、キラキラとした精神的な生命を与えられたマグリット・・・。彼自身が技法的に磨きぬかれた画家となってからも、あの墓場での画家との出会いは創作の原動力となり続けたように思います。
★★★★★★★
E・アッペ・ロルジュ夫人コレクション