シャルダン72歳にして、はじめてパステルで制作した自画像です。ちょっと人前には出られない寝間着姿を描いて、恥じることなくサロンに出品されたものです。
鼻眼鏡の向こうから、シャルダンの穏やかで充実した眼差しが、こちらを見つめています。ルーヴル宮内に自宅を持つ身となっても、やはりシャルダンの心は市井の人のままだったのでしょう。このように飾り気のない格好で、私たちにその技量の確かさを見せてくれています。
72歳にして、まったく新しい画材を使った理由は、その頃、シャルダン自身の健康がすぐれず、油絵の具の臭いに耐え難かったのだと言われています。
しかし、体調が思わしくないときに新しいものに挑戦するというのは割とエネルギーの要ることですし、肖像画という分野も彼にとっては、それまであまり馴染みのあるものではありませんでした。それをあえて挑戦するようになったこと自体、シャルダンの描くことに対する真摯な気持ちを物語っている気がします。
そして、老境に入ってもなお材質感を精神の源であり支えとし続けたシャルダンは、材質感の創造のためには骨惜しみをしませんでした。それは、職人の家に生まれ育った彼が終生持ち続けた勤勉さと平静さであり、それによってシャルダンは、絵画芸術の最も崇高な永遠性を手に入れたのだと思います。
★★★★★★★
パリ ルーヴル美術館蔵